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Dare ga Kataashi datte _ - Tsuchi Mikado Yasushi Toradoc

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略有小成

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发表于 2022-10-21 07:24:02 来自手机 | 显示全部楼层 |阅读模式
 突き抜けるような青い青い空の下、学校のグラウンドを一人の少女が駆けぬけてゆく。その少女は右足がない。僕はその少女に恋をしていた。
 乾燥して埃っぽいグラウンドに真夏の日差しが容赦なく照りつけている。野球部とサッカー部が我が物顔にグラウンドを占領していて、陸上部は隅に追いやられていた。仕方ないから、学校の外の歩道をランニングしてグルグル回ったりしている。あとは、五十メートル走や百メートル走の練習とか。野球部とサッカー部は、この日差しが燦々と照りつける中、ユニフォームを泥まみれにして、大声を出し合い、薄茶色の土の上を駆けずり回っている。うちの野球部は甲子園に行ったことがない。サッカー部も全国大会で上位入賞したことはない。彼らは高校生の有り余る精力をスポーツで昇華させようとしているかに見えたが、残念ながらスポーツに打ち込むことで精力が減ることはない。彼らは無駄に咆哮し、暴れ、挙句の果てに骨折しているようにしか見えなかった。暑苦しいこと、この上ない。
 僕は野球部やサッカー部には何の欠片も興味は無く、陸上部に所属していた。いや、正確には陸﹅上﹅部﹅に﹅さ﹅え﹅、﹅何﹅の﹅興﹅味﹅も﹅な﹅か﹅っ﹅た﹅。僕の視線の先にはカーボン製の黒いブレードがあった。そのカーボン製の板バネが曲がり、きしみ、ブレードに繋がった身体が躍動する。飛び散った汗が空中で煌きらめき、ジュッと乾いた地面に吸い取られる。引き締まった長い手足を左右に繰り出して少女がグラウンドを駆けぬけてゆく。僕はこの少女に近づきたくて陸上部に入ったんだ。

 僕が住んでいるのは都心から離れた田舎町で、東京都内だと言うのに、駅のそばに大きな畑がある。でも、生まれたときからそういう環境で暮らしていると慣れっこになってしまって、都心に住みたいという憧れはあまりない。たまに渋谷に行くと歩くのもままならないほど人が沢山いて、道路の真ん中で閉塞感を感じるし、街頭の巨大モニターと連動したスピーカーから聴きたくもない化粧品のCMが襲いかかり、僕を取り囲む人々もそれに負けないくらい大声で話していたから鼓膜が痛くなる。車の排気ガスが酷くてスクランブル交差点に小一時間も立っていたら喘息になるんじゃないかと思う。喩えば、渋谷のクラブとかDJとかモデルとか僕には全く無縁だったし、そういう〝旨み〟がないと、ただ人が多くてむさ苦しい街に成り下がってしまう。だから僕は渋谷よりも自分の住んでいる田舎町のほうが好きだった。
 僕は京王井の頭線に乗っても渋谷ではなく、下北沢で途中下車することが多かった。下北沢は、おもちゃ箱をひっくり返したような不思議な街で、そこでしか味わえない文化があった。それは瀟洒しょうしゃな喫茶店で飲む一杯の珈琲だったり、車も通れないような入り組んだ狭い道の先にある小劇場で観る芝居だったりした。渋谷で手に入るモノは、今ではネット通販で手に入れることが出来る。でも、下北沢の空気感はネットでは決して買うことが出来ない。そこに行かなければ味わえないライブ感、そのようなものが下北沢にはあった。

 僕がその少女に初めて出逢ったのは高校の入学式の時で、金髪ショートヘア、ギリシャ彫刻のように整った顔立ち、胸に学校のエンブレムの入ったブレザー服、胸元に赤いリボン、赤いチェックのミニスカート、左足は何の変哲もない普通の足だった。右足は黒地に金色の蒔絵が施されたソケットに球型のジョイント、鈍く光るチタン製の丸い棒の先にこげ茶色のローファーを履いていた。松葉杖も車椅子もない。自分の足で立って歩いていた。艶々した銀色のチタンの足がセクシーだ。ただのチタンなら、金属の棒に過ぎない。しかし、少女の体重を支えることでチタンの棒が少女の肉体の一部と化している。僕は酷く嫉妬した。僕もその義足が欲しかった。だって、堪らなくカッコよかったから。でも、両足のある僕は義足をつけられないし、義足をつけるために足を切断する訳にもいかない。僕には決して手に入れられないモノをその少女が持っていることが妬ましかった。
 高校の入学式は体育館で行われ、数え切れないほどのパイプ椅子が並べられ、一年生から三年生までが椅子に腰掛け、その後ろで着飾った親たちがパイプ椅子に座ったり立ったりしていた。校長の退屈な訓示や、一年生代表の挨拶や、PTAの祝辞などが長々と続いたが、僕が興味を惹かれた片足の少女に関する話は一言も無かった。それにしても、入学式に金髪にしてくるなんて肝が座っているな。いや確かに、うちの高校は服装は緩くて制服でも私服でもいいし、髪型や髪の色の規則も何もない。だけど、流石に入学式の一年生は黒か茶髪で金髪なのは、その少女一人だけだった。目立って苛められないかな? いや、目立つといえば元々義足で目立っているんだっけ。

 偶然に僕はその少女と同じクラスになった。学校は二十年くらい前に建てられたと思われるコンクリート製のやれた建物で、床は木製で正方形のブロックが敷き詰められている。壁や天井はクリーム色で塗られ、汚れや落書きが目立つ。廊下側にはすりガラスの窓と教室の前後に引き戸の扉があって、グラウンド側は透明なガラスで、窓の脇に白いカーテンが吊るされている。僕は窓際の真ん中の席に座り、斜め前に腰掛けている金髪の少女をただ眺めていた。
「……くん、……くん、粕谷かすや翔太しょうたくんは居ないのかね?」
 痩せぎすで眼鏡をかけた神経質そうな男性教師が声を荒げる。
「はい! います! ここに居ます!」
 少女が振り返って僕を見て、クスッと笑った。その笑顔が、すごく可愛くて雪割草が咲いたみたいだった。心臓がバクバクして、僕はその瞬間に自分がこの少女のことを好きだということを自覚した。理屈じゃなくて、抑えきれない本能のようなものを感じた。これまでの人生で経験したことのない〝人を好きになる〟という感覚に僕は教室内でひとり戸惑っていた。
「城所きどころ黎那れいなさん」
 金髪の少女が右手を高く挙げて「はい」と返事した。
(きどころれいな、か……)
 僕は忘れないようにノートに名前をメモした。

 昼休み、女子達が机を寄せ合ってお弁当を食べていた。黎那も一緒だ。
 女子達のけたたましい笑い声が不愉快だったけれど、それを指摘して教室内でハブられるのは嫌だったから、我慢して黙々と自分のお弁当を食べていた。『箸が転がってもおかしい年頃』と言うのか、なぜ中高生の一時期だけ、そんなにテンションが上がってしまうのか不思議でならない。第二次性徴とかホルモンとか、そういったものが関係しているのだろうけれど、電車が通るときのガード下のような百デシベルくらいの音量で会話している様には狂気を感じずにいられない。
「城所さんは、なんか趣味あるの?」
 今日、会ったばかりだから、まださんづけだ。明日にはタメ口になるに違いない。
「趣味っていうか、陸上やってるよ」
 一瞬、天使が通り過ぎて教室内がシーンとなった。
「もぉ、冗談きついよー!」
 乾いた笑いが起きる。戸惑いで女子の口元が引き攣っている。
「冗談じゃなくて本気で陸上やってるんだって。今日の放課後、入部届け出してくるつもり」
 みんな口を開けてポカーンとした表情をしていた。

      *

 あれから一年経って、僕は十七歳になっていた。中学の時、体育は二しか取ったことしかないにも関わらず僕は陸上部に入部した。黎那と同じ空気を吸いたかったからだ。
「パラリンピックめざしてるんだ」
 そう言って、陸上部の部室で僕の目の前の青い長椅子に腰掛けた黎那がマイコン制御の膝継手を備えた普段使いのチタンの義足から、ソケットに花柄がプリントされたカーボンブレード付きの板バネのようなスポーツ義足に履き替える。黎那が義足を履き替えるときに一瞬だけ見える右足の切断面を僕は性的な対象として見ていた。この学校の他の誰も持っていない黎那の右足の切断面にエロティシズムを感じた。僕は時々、黎那のことが好きなのか、それとも黎那の切断された右足のほうが好きなのか、自分でも判らなくなることがあった。でも、少なくともそれは一体化していたから、どちらが好きでもあまり問題は無かった。
 上下二段になった灰色のロッカーの連なる部室は中央に二本の青い長椅子が置かれて着替えやすくなっていた。窓を全開にしても部室には酸っぱい汗の臭いが立ちこめて吐きそうだったが、黎那と一緒の空間に居られるというシチュエーションのほうを僕は優先した。窓から日光が差し込んで埃がチラチラ舞っている。陸上部の赤いユニフォームを着た黎那の身体の斜め下半分に日光が当たっていた。
「きっと行けると思うよ、パラリンピック」
「お世辞はいらないよ」
 黎那が椅子に座ったまま、チラッと僕を見上げる。その表情からは何も窺い知れない。
「お世辞じゃないよ。タイムも伸びてきているし、僕より速いじゃないか」
「それはあたしが速いんじゃなくて、あんたが遅いだけでしょ?」
 そう言って、黎那がケラケラ笑った。
「ひどいなぁ……」
 そう言いつつも、僕は黎那とこうして会話できることが嬉しかった。
「それ、高いんでしょ? カーボン製の義足」
「うん。百二十万円くらいかな?」
 黎那がこともなげに応える。
「えっ? そんなにするの?」
「でも、障害者総合支援法で国から九割負担の補助金が出て、あと本人負担額の上限が三万七千円だから、このスポーツ義足は三万七千円。そうでなきゃ陸上なんて諦めてたよ」
 黎那が長椅子から立ち上がって、感触を確かめるように部室内でピョンピョンとジャンプする。
「そうなんだ……」
「ほら、練習いくよ!」
 黎那が部室の鉄の扉を開けてグラウンドに飛び出す。

 僕のこの気持ちをどう説明したら判ってもらえるだろう? 黎那の右足が欠損していることに対して感じる愛着、或いは自分が手に入れることが出来ないものに対する憧れ、ほんの少しの畏怖、言葉に出来ない様々な感情が入り混じって、僕の頭の中は黎那でいっぱいになっていた。人はこれを恋と呼ぶのだろうか? いや、恋というよりも好奇心、或いはこの執着心はフェティシズムと言っても差し支えないと思う。僕は自分で自分の感情を整理出来ないでいた。理性の制御を離れ、感情が暴走する。僕の狂気が加速していく。

 黎那は高校の全生徒九百人の中で唯一無二の存在であり、それは欠点というより個性であって、少﹅な﹅く﹅と﹅も﹅僕﹅に﹅と﹅っ﹅て﹅は﹅美﹅点﹅だ﹅っ﹅た﹅。僕がこれまでの人生でモヤモヤと抱えて生きてきた問いの答えそのものが黎那であって、それはそこに血の通った生身の肉体として存在していて、僕はそれを否定する術を持たなかった。

 僕は大勢に従うことを嫌った。判官贔屓とでも言うような性質が物心ついた頃から身についていて、これは何かの出来事が起因となって、そうした性質になったと言うよりも生まれつき、そういう性質だったのかもしれないと思う。世の中には悪人が居て、周りの人々の影響で悪に染まった人もいると思うけれど、生まれつき性根の腐った悪人もいる筈で、これは性善説とか性悪説とか偏るのではなく、両方とも有り得ると思う訳で十七歳の僕にはそれが真実と思えたというか、反証が見当たらなかった。そうして僕は、「右向け右」と号令をかけられれば左を向くような性質で、それは喩えばホームルームの時間などに多数決を取るとき、明らかに間違った判断の方に挙手するクラスメートが多数派を占める現状などを見るにつけ、多数決とか大勢に支持されているから正しいとは限らないという確信のようなものが小学生の頃から芽生えていた。実際のところ、ヒトラーも民主的に選挙で選ばれた訳で、クーデターで政権を獲った訳ではないという歴史的事実の前に、大衆は扇動されやすい傾向があることは明らかであり、民主主義の脆もろさをそこに強く感じずには居られない。だから、視聴率が高いドラマとか、興行収入が百億円を超えた映画といった宣伝文句には何ら興味をそそられず、実際にそうした前評判の高い作品を見ても、僕にとっては大味でラストシーンまで読めてしまうストーリーで、ただ名の知れた役者を集めて観客動員数を増やしているだけとしか思えず、只々退屈なストーリーが終わるまで映画館の椅子に縛り付けられている拷問でしかない。なぜ途中で席を立たないのかと言えば、或いはもしかしたら万が一、僕の予想を裏切るラストシーンが観られるかもしれない、そうしたら映画料金をみすみす溝ドブに捨てずに済むかもしれないという一縷いちるの望みを託して、映画館という暗い牢獄の中で拷問に等しい子供番組同然の映画を眺めているのだが、いつも自分の予想した通りのラストシーンを観る羽目に陥り、絶望に打ちひしがれて帰途に着くのが常だった。だから僕はいつも常識を疑っていた。事実、一九六〇年代のアメリカでは黒人差別が常態化していて誰もそれを疑わなかった。今では考えられないことだが、黒人を差別することが米国人の常識だった。リンカーン大統領の有名なゲティスバーグ演説の「人民の、人民による人民のための政治」の人民に黒人は含まれていない。黒人は白人とは異なる劣った種族と見なされていた。反人種差別運動家のジェーン・エリオット女史の「目の色によって生徒を差別する」差別体験授業について学ぶと黒人差別が如何に馬鹿げたものか判る。チンパンジーの子供は親の真似をする。それと同じようにヒトも無意識のうちに差別や迷信をミームとして代々伝えてきてしまっているのかもしれない。一九五〇年代から六〇年代にかけて原水爆実験が世界中の国々で度々行われた。公害が社会問題となり、地球は荒廃した。それは、元を正せば「人類は地球環境を制御できるほど優れている」という驕おごりではなかっただろうか? 現実には人類は地球の生命の連鎖の極一部に過ぎず、二十一世紀の今になって地球温暖化対策だの風力発電だの電気自動車だのと躍起になっている。つまり、過去の大多数の人類は大きな間違いを犯していた訳だ。地球にとって、人類は厄介なエイズウイルスのようなものだった。いま、赤痢で死ぬ人は昔よりも格段に減っている。ウイルスも宿主が死ぬと自分も死んでしまうということを学習して進化して毒性が弱まっていくものらしい。地球にとって厄介なウイルスである人類も毒性を弱めつつあるのかもしれない。
 僕は決して他人に迎合することは無く、それが故に孤独な自分を常に心のなかに抱えていたが、極力それを見せないようにして表面上は周りに合わせていた。それは只めんどくさかったからだ。周囲の間違いをあげつらい、欠点を批判したところで、学校で虐められて家に引きこもるのが関の山だ。決して裕福とは言えない母子家庭の僕はそんなつまらない意地を張って母に面倒をかけたくない。そうした取るに足らない有りふれた理由で自分を押し殺していた。
 僕は皆が良いというモノには特に猜疑心を抱いていた。評論家や学者が良いというモノには更に強い猜疑心を抱いた。どういう訳か、まるでロボットのように自分で考える能力を持たないヒトがいて、誰かエラい先生が「これは良いモノだ」というと、それに飛びつく。かつて、健康を謳う番組が一世風靡したことがあった。「納豆を食べると痩せる」という番組が放送された翌日にはスーパーの棚から納豆が消えた。勿論、納豆をいくら食べたところで痩身効果などある筈もなく、ほかにもヤラセが発覚して健康を謳う番組は全て姿を消した。自分で考えること無く、他人の言うことを鵜呑みにする、特に偉いセンセイの言うことなど、有り難い経典のように鵜呑みにする。もしかしたら、そ﹅の﹅ほ﹅う﹅が﹅楽﹅な﹅の﹅か﹅も﹅し﹅れ﹅な﹅い﹅。自分で考えるよりも、他人の言うことを鵜呑みにして、さも自分の意見のように吹聴して回るほうが〝自分で考えなくていい分だけ楽〟なのかもしれない。それが結果的にヒトラーに騙されることになってもだ。段々と歳を経るごとに恐ろしいことに気づき始めたのだけれど、もしかしたら〝自分で考えることを放棄したロボット人間〟、他人から命令されなければ何もできない〝指示待ち人間〟が社会の七八割を占めているのではないだろうか? 彼らは一体何になりたいのだろう? 欧米で大学に行って、大学で学んだ専門外の職に就くことは稀だそうだ。しかし、日本では将来、どんな会社に入りたいかさえ決めずに大学に入り、まだ三年生のうちから就職活動して大学の専門教育とは無関係な会社に入社して、挙句の果てに新卒社員の三割は三年以内に会社を辞める。これじゃ、親は何のために子供の高い学費と生活費を捻出して大学に行かせたのか判らない。僕は良いと言われたモノは疑ってかかるし、逆に悪いと言われたモノも疑ってかかる。かつては差別や嘲笑の対象であったLGBTも今はカミングアウトする人が増えているじゃないか。黎那は明らかにその延長線上に居た。日本でも海外でも障害者は差別の対象となった時代があった。ナチス・ドイツが優生思想に基づき障害者や難病の患者は安楽死させようとするT4作戦があった。日本の障害者施設でも、最近痛ましい事件が起きた。ごく近年の平成八年まで日本でも優生保護法に基づき、知的障害者の子宮を手術で切除するという蛮行が行われていた。その理由は優生思想ですらなく、知的障害を持った女性の生理の介護が面倒だからというものだった。
 僕はそれが良いモノと言われていようと、悪いモノと言われていようと決して鵜呑みにすることなく、自分で調べて、考えて、時には議論して、自分で判断することが習慣づいていた。勿論、十七歳の知識も経験も人脈も限られたもので、自分の判断が正しいかどうか答えを出せないこともあったし、間違えることもあった。ただ、自分で考えて判断するという過﹅程﹅そ﹅の﹅も﹅の﹅が大切だと感じていた。

 その日は焼けるように暑い夏日だった。陸上部に入って一年経っても一向にタイムの伸びない僕は明らかに陸上に向いていないことを自覚していたし、周りの部員も何故僕が陸上部にしがみついているのか訝しんでいる節もあった。僕は社会人になってからは身体を鍛える機会はめっきり減るから今のうちに筋肉をつけて身体を鍛えることが陸上をする目的であってタイムは気にしていないのだという建前を事あるごとに口にしていたが、勿論それは黎那と一緒にグラウンドの土の上で過ごすための口実であり方便でありかこつけに過ぎなかったものの、それで一応、薄皮一枚の面目を保っていた。部活の練習時間だというのに黎那の姿が見えず、しかも夏の日差しは頭蓋骨を通過して脳を直接ジリジリと焼くようで、僕は堪らず練習から逃げ出し、日陰を求めて埃っぽいグラウンドの上をゾンビよろしく彷徨さまよっていた。
 暑さを通り越して憎しみさえ覚える強烈な日光が当たらない校舎の陰を見つけ、僕は誘蛾灯に吸い寄せられる羽虫のようにフラフラとそこへ吸い寄せられていった。校舎の陰には先客が居て、陸上部の赤いユニフォームが見えた。あれは黎那? しかし、黎那は僕と違って陸上の練習をサボったりはしない筈だ。さらにそちらに向かって進むと、僕は見てはいけない、というか見たくないものを偶然に見てしまった。陽の当たらない校舎の陰で淫靡いんびな秘め事を隠れてするように、陸上部の先輩の真中史朗まなかしろうと黎那がキスしていた。黎那は踵をあげてつま先立ちで、長い睫毛を閉じてキスに夢中になっていた。ジリッと嫉妬の炎が燃え上がる。ただ、その光景はルネッサンス美術の絵画のように美しくもあった。黒いカーボンブレードの義足がアクセントになっていて、そのまま額縁に収めて美術館に飾りたい気もした。
 ジャリッと僕の靴が音を立てた。気をとられて音を立ててしまった。偶然に目が合った野良猫がカッと目を見開いて、直ぐに次の動作に移れるように筋肉を緊張させて身構えるのと同じ、人間よりも更に原始的な動物のような眼差しでふたりが僕を凝視していた。その凍てつくような空気に耐えられなくなった僕はふたりに背を向けて全力で逃げ出した。

 家に帰っても、黎那のことで頭がいっぱいだった。黎那は真中と付き合っているのだろうか? でも、そんな話は聞いたことがない。それに、あまり一緒にいるのを見たこともない。ふたりは付き合っているのか? どこまでの付き合いだろう? もうヤッちゃったんだろうか? 世界の何もかもが色を失って灰色に見えた。様々な疑念が頭の中で渦巻いて、その日は眠れなかった。

 次の日、真っ赤に充血した目で学校に行った。結局、オールで寝ていない。目の下には盛大にクマが出来ている。人に見せられた顔じゃない。ガラガラと教室の引き戸を開けて中に入る。今朝も教室内ではけたたましく女子が騒いでいる。僕は無言のままカバンを引き摺りながら自分の席に着いた。僕の斜め前では黎那が他の女子と一緒にキャーキャー騒いでいた。まるで昨日の出来事など何もなかったかのような素振りだ。もしかしたら、昨日のアレは僕の見た白昼夢だったのだろうか? いや、あれは紛れもないリアルだ。ただ、僕はそれを認めたくなくて現実逃避したかったんだ。

 一時間目の現国の授業中、六角形に折られた手紙が僕に回されてきた。開封すると角ばったギャル文字で『昼休み、屋上でまってる。黎那』そう書いてあった。思わず黎那を見る。黎那は素知らぬ素振りで黒板にチョークで書かれた白い文字をノートに書き写していた。

 昼休み、心臓をバクバクさせながら屋上に向かう階段を昇った。身体が震え、脇の下に変な汗をかいている。握り締めた手にも汗をかいている。胃液が逆流して苦い味が口の中に広がる。僕は屋上で何が待ち構えているのか、暗い夜の海に引き摺り込まれるような恐怖を感じていたが、そこへ向かう足取りを緩めることは出来なかった。屋上に向かう壁は薄汚れた灰色のモルタルで、階段はあちこち隅がひび割れたリノリウムだった。黒いペンキの隅が禿げて赤錆が浮き出した屋上の扉を開けると、青い空がいっぱいに広がり、屋上の灰色のコンクリートの上で右足が義足の黎那が仁王立ちになっていた。
「やあ、話って何?」
 勤めて平静を装い、片手を挙げて黎那に近づく。
「その目、どうしたの?」
 能面のように無表情な顔で黎那が僕に尋ねる。
「いや、昨日はオールしちゃって……」
「もしかして、あたしのせい?」
 黎那が咎めるような視線で僕を見つめる。
「いや、これはその……ゲームのやりすぎでオールしちゃったっていうか……」
「なんていうゲーム?」
 矢継ぎ早の質問に答えに窮する。自分が追い詰められていることを実感する。焦れば焦るほど、頭が回らなくなっていく。
「えーと、アレだよアレ……」
 ゲームの名前が出てこない。
「なんかゴメンね」
 黎那が目を逸らして俯く。
「え?」
 僕は訳が判らない。
「昨日のあれはちがうの。先輩は三年生でもうすぐ卒業しちゃうから、思い出にキスしてって、あたしから頼んだの。
 先輩には彼女がいて……だから、なんでもないの」
 安心感と同時に、一気にドッと疲れに襲われた。重くて自分の体重を支えきれない。
「きゃあっ」
 屋上のコンクリートに座り込んだ僕を見て黎那が悲鳴をあげる。正座して上半身だけ起きているような格好だ。黎那が座り込む。僕の目の前に鈍く光る銀色のチタンの義足がある。黎那のミニスカートの中に見える水色のショーツよりも、僕はチタンの義足のほうを見ていたかった。
「どうしたの? 大丈夫?」
 黎那の端正な顔が目の前にあって僕を見つめている。黎那の大きな瞳に僕の顔が映り込んでいる。
「いやもう、逆に大丈夫っていうか安心して腰が抜けた……」
 黎那がクスッと笑う。
「知ってる? 翔太ってすぐ表情に出るから分かりやすいんだよね。
 立てる?」
 黎那が立ち上がって、僕の腕を引っ張る。僕は立ち上がってズボンの埃を叩いた。
「早退するか、保健室で寝たほうがいいんじゃない?」
 黎那が上目遣いで僕の顔を見上げる。可愛い仕草に胸が高鳴る。
「そうする」

 結局、真中とは何でも無かったことを知って、僕の行き場のない焦燥感は空中に四散した。黎那はなぜ、真中とキスした理由を僕に打ち明けてくれたのだろう? 噂になるのが嫌だったから? だけど、僕がそういう噂話をしない性格であること位、黎那は知っている筈だ。僕に誤解されたくなかったから? 僕の誤解を解きたかったから? でも、それに必然性があるだろうか? 僕のことを何でもない赤の他人と同じように思っていたら、誤解を解きたいと思わないに違いない。もしかしたらワンチャンあるのか? 僕と黎那は今にも途切れそうなほど細い糸で繋がっているのだろうか? 僕は頭の中で答えの見つからない問いを延々と繰り返した。
 三日考えて、自分ひとりでは決して答えが見つからないことに気づいた。僕は黎那の頭の中を見ることは出来ない。答えは黎那の中にある。〝叩けよ、さらば開かれん〟、聖書にもそうあったじゃないか。僕はダメ元、玉砕覚悟で黎那にアプローチしてみることに決めた。これは旅客機の着陸よりも難しい。旅客機はランディングに失敗したら着陸せずに加速して再び大空に飛び立ち、着陸手順をイチからやり直すことが出来る。しかし、黎那へのアプローチは失敗したら大事故だ。次は無い。しかし、三日間悩んだ自分の気持ちにケリをつけるためには、危険を伴うランディングに挑戦する以外に道は無かった。

「これ映画の割引券、二枚あるんだけど、一緒に行かない?」
 陸上部の練習が終わって、シャワーを浴びて制服に着替えた帰り道、黎那にチケットを渡した。黎那は半袖の制服に赤いチェックのミニスカート、右足はソケットに黒地で金の蒔絵が施された銀色のチタンの義足だ。両足とも同じローファーを履いている。右足だけが機械でサイボーグみたいでカッコイイ。黎那が目を輝かせる。
「この映画、見たかったんだ! ほんとにいいの?」
「いいよ。こんどの土曜日あいてる?」
「うん。どこで待ち合わせする?」
 いつもと同じ街の風景が輝いて見える。僕は気分が高揚していた。黎那と初めてのデート、というより女の子と生まれて初めてのデートだ。緊張と不安と期待が入り交じる。チケットを渡した映画はメロドラマで僕の好みとはかけ離れていたが、女の子の好きそうな映画を選んだ。僕はアメリカのヒーローキャラがプリントされた黒いTシャツとダメージジーンズ、バンズのスニーカーを土曜の服装に選んだ。

 土曜日は渋谷のモヤイ像の前で待ち合わせした。黒ずんだモヤイ像の周りは待ち合わせしている人々が集まっていて、サラリーマンやギャルやヤンキー、何の統一性も無かった。灰色のコンクリートの中で、黎那はひときわ目立っていた。金髪ショートヘアに裾の広がったガーリーな花柄ワンピース、赤い靴を履いたチタンの右足。完璧に美しい。黎那に向かって手を振る。
「おまたせ!」
 黎那が笑顔で手を振り返す。
「どこ行くの?」
「マルキューを挟んで向かい側のシネコン」
 黎那が上目遣いで僕の顔を伺う。
「カメラ屋の隣りのビル?」
「そう、そこそこ」
「わかった」
 人の群れたモヤイ像を離れ、ガード下の信号に向かって歩く。信号は赤だったから立ち止まる。手を伸ばせば届くところに、隣りに立っている黎那の手がある。黎那と手を繋ぎたい。でも、僕らはまだ恋人でもなんでもない。微妙な距離感が僕の衝動を邪魔していた。
 信号が青になって歩き出す。信号の中央を歩いている辺りでどこからか「かわいそう」という声が聞こえた。雑踏の中からその言葉の輪郭だけが浮き上がり僕らの脆い心臓に突き刺さる。あれは明らかに黎那に向けられた言葉だった。僕は怒りと戸惑いの気持ちが同時に沸き起こったが、それをどこにぶつけたらいいのか判らなかった。黎那が口を開く。
「かわいそうって言われると、すごく違和感を感じる。だって、松葉杖無しで歩いたり、走ったり出来るし、薬も何も飲んでないし。健常者と同じように生活できるのに、かわいそうって言われる意味がわからない。
 あたしにとっては、ただ日常がそこにあるだけで、それが〝かわいそうな日常〟だとは思わない」
 真っ直ぐ前を見て歩く黎那の視線に凛とした美しさを感じた。
「好きだよ、黎那のそういうとこ」
 黎那が僕を見て微笑み、手を繋いできた。しっとりして温かい手だ。

 道玄坂を登るとシネコンがあって、僕らの目的地はそこだった。映画のタイトルはよく覚えていないけれど『愛は時の彼方に』とか、そんな感じのいかにもメロドラマ的なタイトルだった。シネコンは映画館が幾つも集まって同時に複数の映画を上映するスタイルで、チケット売り場とモギリを統合することで人件費を浮かせる仕組みになっている。映画は全てデジタル上映で映写技師は居ない。ここでも人件費の削減を図っている。上映の解像度はフルハイビジョンで4Kよりも画質は劣る。人間の眼の判別可能な解像度の限界は8Kらしい。フルハイビジョンよりも35ミリフィルムのほうが解像度が高いのだが、何度も焼き増ししていると、その分だけ解像度が落ちるし、上映を繰り返すだけでも35ミリフィルムは傷がついたり色味が変化したりする。そういった意味に於いては上映初日でも最終日でも画質の変わらないデジタル上映の利点も在る。
 シネコンは幾つも映画館が集まっている為かロビーは広く、チケットを売るカウンターも幅が広く、数人の係員がチケットを販売している。ロビーはくつろげるような落ち着いた色調で纏められ、十人ほどの客が合皮のソファーに腰掛けて映画の開場時間を待っていた。僕らはチケット売り場に向かった。ハタチくらいのニキビ面の女性が営業スマイルで微笑みかける。
「『愛は時の彼方に』二枚……」
「『愛は時の彼方に』一時十五分の回でよろしかったでしょうか?」
 思わずカチンときた。僕は〝よろしかったでしょうか〟という言い回しが嫌いだ。日本語として間違っている。
「はい。学割と割引券どっちのほうが安くなりま……」
「ちょっと待って!」
 黎那が青い手帳を取り出して係員に見せた。
「この人は、あたしの付き添いよ」
 係員が笑顔で手帳を黎那に返す。
「お二人様で二千円になります」
「え? 安っ!」
 僕は狐につままれた気分で二千円を支払い、映画のチケットを受け取った。
「この魔法の手帳があれば、映画もバスも半額、公営の美術館や博物館は全て無料で入れるの。付き添いの一名も一緒に」
 黎那がドヤ顔で手帳を見せびらかす。
「すげー!」
 黎那が持っていたのは障害者手帳だった。そういう特典があるとは知らなかった。
 それにしても、ちょっと待てよ? 黎那は松葉杖無しで歩いたり走ったり出来る。走る速度は僕よりも速い。常用している薬も何もない健康体だ。黎那って、もしかして健常者よりも得してないか? 僕は益々、黎那のチタンの義足が羨ましくなった。あのチタンの義足を僕のものにしたい。いや、そうじゃない。チタンの義足は黎那が身につけてこそ魅力的なのだ。黎那とチタンの義足は合わさってひとつで、僕はその両方を手に入れたかった。欲張り過ぎるだろうか?

 二番シネマに入って指定席に着く。僕の右側に黎那が腰掛ける。
「あたし、映画館って久しぶりー!」
 黎那の笑顔を見ていると気持ちが綻ぶ。やがて銀幕に予告編が流れ始め、場内が暗くなり、本編が始まった。ヨーロッパの田園風景が流れる色彩の鮮やかな恋愛映画だ。
 僕は映画そのものよりも、映画館の椅子の肘掛けの上に置かれた黎那の左手の方が気になっていた。映画館で女の子の手を握るのは自然な行為だろうか? もし、拒まれたらどうしよう? 僕は拒まれて自分が傷つくことが怖かった。手にジットリと汗が滲む。
 思い出せ! 思い出せ! 思い出せ!
 さっきは道玄坂を黎那と手を繋いで歩いていたじゃないか?
 僕はダメージジーンズで手の汗を拭い、黎那の手の上に自分の手を置いた。隣りの黎那の顔をチラッと横目で窺うと正面を見つめたまま微動だにしない。スクリーンの色彩が黎那の顔に反射している。手を引っ込めようかと思ったその時、黎那が手の平を裏返しにして僕の手を握り返してきた。顔は相変わらず正面を向いたままだ。黎那の手は柔らかく温かかった。初めて映画館の中で手を繋いだのに、黎那はそれが自然なことのように振る舞っている。女の子と手を繋いでいると、不思議な安心感が湧いてくることに気づいた。それはおそらく本能的に自分の身体の内側、脳ではなく心臓の辺りから湧き上がってくる感情で、初めての感覚に僕は酔いしれていた。

 ただ、困ったことに僕はいつものように映画が始まって十分くらいでラストシーンを予想出来てしまい、そのラストシーンは僕にとって好ましいものではなかったから、予想と異なるラストシーンを期待したのだけれど、その期待は見事に裏切られた。
 ヒロインには難病で車椅子の妹が居て、主人公の「妹の分まで僕たちは幸せになろう」という台詞で映画は終わった。場内からはすすり泣く声が聞こえてくる。BGMと共にエンデイングのスタッフロールがスクリーン上にまだ流れていたが、黎那は僕の手を解き、席から立ち上がった。僕も立ち上がって、黎那に続く。座っている観客を掻き分け、出口に向かう。黎那は無言で、僕はその沈黙が怖かった。

 僕らは映画館そばのドーナツ店で休憩をとることにした。こげ茶色と深緑を基調とした店内で、同じアメリカ系列のスタバに似た雰囲気だ。こういう内装にも国民性が反映されるのだろうか?
 黎那は映画が終わってから、一度も笑顔を見せずに無口だった。
 カウンターで女性店員が営業スマイルで「いらっしゃいませ」と話しかけてくる。
「黎那は何にする?」
「あたし、シナモンシュガーとアイスコーヒー」
「じゃあ僕は、クッキー&クリーム・リッチとアイスラテ」
「ご注文は、シナモンシュガーとアイスコーヒー、クッキー&クリーム・リッチとアイスラテでよろしかったでしょうか?」
 一瞬、殺意を覚えた。僕は〝よろしかったでしょうか〟という言い回しが嫌いだ。今日はこれで二度目だ。
「はい」と、黎那が応える。
 代金を支払い、ドーナツと飲み物をトレイに載せて空いている座席に向かい合って腰掛ける。黎那の金髪ショートヘアが揺れる。
「さっき、なんか気に障った?」
 黎那が上目遣いで僕を見つめる。堪らなく可愛い仕草だ。
「え? なんのこと?」
「店員がなんか言ったとき、急に眉をひそめたから」
 自分の顔を観察されていたとは思わなくて戸惑う。
「ああ、ええと、それは僕は〝よろしかったでしょうか〟っていう言葉遣いが嫌いなんだ。日本語として間違っているし、そういうバイト敬語を聞かされなければならない自分の立場が嫌になる。変な話だけど、自己嫌悪を感じるんだ」
 黎那が自分のドーナツを口に運ぶ。
「そうなんだ。あたしは気にしたことなかったけど、翔太の言ってることも判るよ。半分くらい」
「半分だけかよ?」
 映画館を出て初めて黎那が笑った。
「翔太って、すぐ感情が表情に出るほうだよね」
「そうかな……?」
「それは美点だよ、少なくともあたしにとっては。嘘をつけない人のほうが、一緒にいて気持ちが楽。
 あたしを見て、自分の感情を見せないようにしようとする人が多過ぎるから……」
 黎那がアイスコーヒーを一口飲む。
「それ一口ちょうだい」
 僕のいかにもアメリカンなゴテゴテとクリームとチョコレートの載ったドーナツを黎那が指差す。僕がドーナツを差し出すと「あ~ん」と黎那がドーナツにかぶりつき、半分くらいを口に頬張る。
「いや、それ一口って言わないよ」
「いいじゃん。あたし基準では、これが一口なの」
 そう言って、黎那がケラケラ笑う。機嫌が治ったみたいで良かった。
「ねえ、今日の映画どうだった?」
 黎那が真顔で僕に尋ねる。
「う~ん、まぁ良かったんじゃないかな?」
「嘘! 顔にそう書いてあるよ」
 僕は苦笑するしかなかった。
「僕は映画監督になりたくてさ、シナリオの通信講座を受けたり、漫画の原作の勉強をしたりしているうちに、なんか脚本家がどうシナリオを書くか自分の頭の中でトレースできるようになっちゃって、映画の冒頭十分を見るとラストシーンが判ってしまう特殊能力っていうか、そういうのが身についちゃって……」
 喉がカラカラになってきたのでアイスラテを一口飲んで喉を潤す。黎那は正面からジッと僕の目を見つめている。
「映画に出てくる伏線に気づいてラストシーンを予想できるっていうか。僕は極力、映画の内容について情報をシャットダウンしてストーリーを知らない状態で映画を観に行くんだけど、今回は失敗したかもしれない」
「翔太のせいじゃないよ、気にしないで。あたしも見たかった映画だし……
 映画が終わって、すすり泣きの声がしてたよね。
 知ってる? ああいうの、感動ポルノって言うんだよ」
「感動ポルノ?」
 初めて聞く単語に戸惑う。
「障害者を見て、健常者が『自分の人生は周りより劣ってるけど、下には下がいる。障害者よりは自分はマシな生活をしてる』って感動するための道具として使われてる。それが感動ポルノ。
 翔太はあたしのことをかわいそうだって思う?」
「いや、全然……」
 それは本心だった。黎那は右足がなくても歩いたり走ったり出来るし、障害を苦にしているところを見たことがない。それに僕は黎那のチタンやカーボン製の義足に〝美〟を感じていて、自分も義足をつけたいのにつけられないことが悔しくもあった。右足にチタンの義足をつけた黎那は完璧に美しくて、僕の理想そのものだった。
「あたしは健常者を感動させるための道具じゃない。あたしを見て、
〝かわいそう〟って言うのは差別そのものよ」
 そこで言葉が途切れた。重苦しくない沈黙。ふたりだけの世界。言葉は邪魔なだけだった。このまま時が止まってしまえばいいのに。
 黎那がふうっと息をついて、話を続ける。
「ひとつ謝らなきゃいけないことがあるの」
 僕は意味が判らない。
「え? どんなこと?」
 黎那が唇の端で笑った。
「映画館の椅子の肘掛けに左手を置いてたの、あれワザとなの」
「ワザと?」
「翔太を試したのよ。あたしに気があるかって……そしたら、手を握ってきたから握り返した……」
 脈拍が早くなり、自分の顔が赤くなっていくのが自分で判る。恥ずかしくて正面から黎那の顔を見ることが出来ない。
「……ください」
「聞こえない」
「好きです! 付き合ってください!」
 沈黙の時が流れる。おそるおそる顔をあげると黎那が微笑んでいた。
「いいよ。こちらこそ、よろしく」

 それから後のことは混乱してよく覚えていない。何を話したか思い出せない。気がつくと店を出て、外を歩いていた。
 黎那が僕に腕を絡めてきた。柔らかい(违规用词,请立即整改,禁止带有成人内容)の感触が腕に伝わり、初めての感触に心臓が早鐘を打つ。他人から、他の通行人からどう見えてようとも、もうどうでも良かった。世間がどう感じようと、これは二人だけの関係だ。他人にとやかく言われる筋合いはない。必要なのは僕らふたりの合意で、それは既に成されていた。
「あたしのパパとママ、今夜は帰ってこないんだ。うちに寄ってく?」
 身体中の汗腺が開いてドバッと汗が噴き出す。言葉が出てこなくて、コクコクと頷いた。
「意外だった? 障害者にだって、性欲はあるのよ」
 言われてみれば、喩え手足を失ったからと言って性欲を失って聖人君子となる理由が見当たらない。

 渋谷から京王井の頭線に乗って、僕がいつも使う駅の隣り駅で降りた。駅から歩いて十分ほどの場所に黎那の家があった。
「ここ、あたしん家」
 黎那が指差した家は築十年位の二階建てで屋根にソーラーパネルが設置されていた。特に目立つところもない普通の一軒家だ。黎那がポケットから鍵を出して玄関のドアを開ける。
「どうぞ、入って」
「お邪魔します」
 心臓をドキドキさせながら、これからイケないことをする悪人のような後ろめたい気分で玄関に足を踏み入れると、何か判らないけれど柑橘系の匂いがした。その家に住んでいる本人は気づかないが、家にはそれぞれ固有の匂いがあって、黎那の家は柑橘系の匂いだった。匂いの源泉がどこにあるのかは判らない。
 玄関に上がり、スリッパを履かずに靴下のまま廊下を歩く。
「汗かいちゃったね。翔太が先にシャワー浴びなよ。
 あたしの部屋は、玄関入った一階のここ。バスルームは奥にあるから」
「うん」
 黎那に言われるがまま、バスルームに向かう。何かフワフワとして現実感がない。
 黎那の家の廊下は手すりがついていてバリアフリーになっていた。バスルームに入ると脱衣所に洗面台とドラム型洗濯機が置いてあった。衣服を脱ぎ捨て、ドアを開けて驚いた。風呂場はそこら中、無数に手すりだらけだった。義足をつけたまま風呂に入ることは出来ないから、片足と両手で移動するには手すりが必要なのだろう。黎那を見ていて感じるのは、障害は不便だけど不幸ではない。
 僕はボディシャンプーをつけて身体中、隅々までよく洗った。シャワーで泡を流し、バスタオルで身体を拭いて、衣服を身につけ、バスルームを出て、黎那の部屋のドアをノックしてから開けると、黎那が麦茶の入ったコップを膝の上に置いてベッドの上に腰掛けていた。
 壁紙やカーテンや絨毯がローズやオレンジの暖色系で纏められた女の子らしい部屋で、ただ一点だけ異なるのは、部屋の一角に立てかけられた何本ものカラフルな義足だった。僕にとっては堪らなく魅力的な光景だ。あの義足を全て黎那に履いてもらって脳裏に焼き付けたい。そう思わせるほどに、それらの義足は美しかった。チタンやカーボンやプラスチックで象られた蠱惑的な曲線にクラクラする。
「机の上に麦茶置いといたから飲んで。あたしもシャワー浴びてくる」
 ハイタッチして黎那が部屋から出ていく。僕は悶々とした気持ちで床に胡座をかいた。喉がカラカラだ。机の上の麦茶に手を伸ばし、一気にゴクゴクと飲み干す。一分が一時間に感じる。身体が火照ってきた。いまシャワーを浴びたばかりなのに、また汗をかいている。この部屋の中だけ時間の流れが変化して、全てがスローモーションで動いているんじゃないかと感じる。生きた化石のシーラカンスになった気分だ。脈拍が速い。血圧は二百を越しているんじゃないだろうか?
 どれくらい待っていたのだろう? 時間の感覚がない。カチャッとドアが開いて、黎那が裸に白いタオルを巻いただけの姿で部屋に入ってきた。銀色のチタンの義足が堪らなくセクシーだ。
「カーテン閉めて。ベッドサイドのルームライトを点けて」
 僕が言う通りにすると、黎那が部屋にあったCDをかけた。ジャニス・ジョプリンの『サマー・タイム』が流れる。ハスキーで退廃的な歌声に空間が染められる。
 黎那がハラリと白いバスタオルを床に落とした。一糸まとわぬ肢体が露わになる。砲弾型の(违规用词,请立即整改,禁止带有成人内容)が身体の前方に突き出し、先端でピンク色の乳首が艶々している。くびれたウエスト、縦長のおへそ、逆三角形の茶髪のデルタゾーン、僕を魅了して止まない機械式の右足と、血の通った左足。グラウンドを走る時に揺れていた豊満なバストを目の前にして、僕ははち切れそうなほど勃起していた。黎那が目を閉じて唇を突き出す。僕は唇を重ねた。とろけそうに柔らかい唇から体温が伝わってくる。黎那のほうから舌を入れてきた。官能的に舌が絡み合い、頭に血が上って脳味噌が沸騰する。
 黎那が右足のチタンの義足を外して壁に立てかけ、全裸のままベッドに寝そべった。僕は可及的速やかに衣服を脱ぎ捨て、ベッドに飛び込んだ。仰向けになっても崩れない砲弾型の(违规用词,请立即整改,禁止带有成人内容)の頂上にある乳首を口に含む。
「あんっ」
 乳首を吸うと仄かに甘い味が口の中に広がったように感じたが、或いはそれは只の錯覚だったのかもしれない。僕の口の中で乳首が尖ってきた。感じているんだ。股間に手をやると、そこはもう充分に濡れていた。僕は乳首から口を離して、黎那の下半身に移動した。黎那の右足は膝の上で切断されていて、先端には『人』という字のような形の傷跡がある。縫い合わせた跡だ。そこはまだ肌色になっていなくてピンク色をしていた。時間が経つにつれ肌色に近づいていくのだろう。僕はそのピンク色の傷口を堪らなく愛おしく感じた。僕は黎那の切断された切り株のような右足をピチャピチャと音を立てて舐め回した。断端はプニプニしていて柔らかく、そのまま齧って食べてしまいたくなる衝動を、かろうじて理性で抑えながら愛撫し続けた。
「もう……そこは性感帯じゃ……ない……」
 黎那が切断された右足を舐められて喘いでいる。僕はもう我慢の限界だった。黎那の脚を開いて腰を割り入れる。
「ああっ」
 欲望の象徴が処女の秘裂を割裂いていく。僕は頭の中が痺れるような初めての快感に浸っていた。
「お前の中、温かい……」
 黎那が僕の背中を抱きしめている両手にギュッと力をこめた。
 律動を始めても、長くは持たなかった。頭の中にバチバチと快感の火花が散り、僕は黎那の中に精を解き放った。
「ああっ……熱ぅい……」
 頬を赤く染めた黎那が潤んだ瞳で僕を見つめる。僕は繋がったまま黎那の唇を奪った。

 その夜は、ふたりで一緒にシャワーを浴びたあと、裸のまま抱き合ってベッドで寝た。
「こういうことを言ったら怒られるかもしれないけど、キミに右足があったらキミのことを好きにならなかったかもしれない」
「ばか……」
 そう言って、黎那はフフフと笑った。

 片足を切断された少女のことが好きな僕は変質者なのだろうか? LGBTと、どう違うのだろう? フェティシズムは矯正されなければ世の中に害を及ぼす異常性欲なのだろうか? 喩えば、下着泥棒が何千枚も女性の下着を集めて自宅に隠し持っていた事件がニュースで報道されたりする。青いブルーシートの上に何千枚もの下着が並べられた光景は異様で確かに害悪だ。それは他人に迷惑をかけているからだ。しかし、脚フェチや鎖骨フェチや耳フェチが他人に迷惑をかけているだろうか? 脚フェチの人が脚の綺麗な人に恋をして結婚したとしても、それは誰かに迷惑をかけているのだろうか? コスチューム・プレイは法律に触れるだろうか? 僕は気づいた。お互いの合意があればフェティシズムは法律に触れないし、矯正すべき異常性欲にも該当しない。

 或る台風の日、身体が飛ばされそうな強い風雨のなか、僕の父は「煙草を買いに行く」と言って外に出た。止める隙も無かった。それきり、父は帰って来なかった。父が遺したのはスイス製の機械式の自動巻き腕時計で、それだけが遺品だった。
 僕は秒針を刻む時計が嫌いだ。コチコチと音がするたび、一秒ごとに自分の寿命が削られていく。僕はずっとこのまま死ぬまで十七歳のままでいたい。僕は若さ故に老いに恐怖を感じていた。歳をとって自分が極ありふれた〝誰でもない誰か〟になることを病的に畏れていた。十七歳の今は何者にでもなれる可能性があって、宇宙飛行士でも総理大臣でもノーベル賞級の学者でも、何にでもなれそうな気がした。しかし、時が経ち、二十代、三十代となった時に自分が誰にも名を知られない、極ありふれた市井の人となって、その他大勢の一人として埋没していく未来を容易に頭に思い描くことが出来て、そんな幾らでも代わりの利く部品のような社会の歯車になる位なら、いっそこのまま十七歳のままで居たい。未来に対して後ろ向きの感情に僕は支配されていた。

 うちの叔母は四十二歳だ。結婚していて子供はいない。ついこの間、叔母夫婦が墓石を買ったと聞いた。そして『これで大丈夫だ』と言っていたそうだ。僕には何が大丈夫なのかサッパリ判らない。僕は無宗教だし、死後の世界なんて信じていない。死んだら、それで終わりだと思っている。一体全体、四﹅十﹅二﹅歳﹅で﹅死﹅後﹅の﹅世﹅界﹅を﹅心﹅配﹅す﹅る﹅意﹅味﹅がどこにあるのだろう? 大体、子供もいないのだから、お布施も無しに寺が永代供養してくれるのだろうか? お布施が途絶えれば無縁仏に墓石を移動されて、墓場は他の誰かに売られてしまうのではないだろうか? 曽祖父が九十四歳で亡くなった時、見事に何も残らなかった。特養老人ホームから救急車で病院に運ばれて、その日のうちに亡くなった。死因は肺炎だった。死因がよく判らない時、医者は死因を肺炎と書くと言う都市伝説があるが本当だろうか? 曽祖父は兵隊として戦争に行き、復員したあとはサラリーマンとして働き、六十歳で退職して、その後は特に何もせず、ただ歳をとって死んだ。人は二度死ぬという。一度目は肉体の死、二度目は忘却の死。曽祖父のことを覚えている人達が生きているうちは、曽祖父は思い出の中で生きている。曽祖父を覚えている人が誰も居なくなった時、曽祖父は本当に死ぬ。だから、僕は叔母夫婦が四十二歳で墓石を買ったという事実が、とても滑稽に思えてならない。一体なにを心の拠り所としているのか、僕には理解出来ない。

 どういう訳か、黎那はクラスの中で孤立することも虐められることもなく、他の女子達と馴染んでいた。金髪ショートヘアの黎那がコスメやファッションやアイドルの話に興じている様を見ていると、他の女子と何も変わらない。今朝も女子達がより集まって必要以上に高いデシベルで中身のない話に興じている。女子の髪型は、黒のロングや茶髪でウェーブ、金髪ショート、てんでバラバラで統一性がない。個性とか自己主張とかそんな大袈裟なポリシーがある訳ではなく、ただ何となく、自分の好きな髪型をしているだけだ。胸ポケットの上に学校のエンブレムの入った半袖の白いブラウス、胸元に赤いリボン、チェックのミニスカートから覗く生足の太ももの群れ、その肉の林の中で一本だけ鈍く光る銀色のチタンの義足があって、他の生身の足と見比べるほどに、僕はそのチタンの義足を美しいと感じて、黎那のことを益々好きになった。
「ねぇねぇ、あたし彼氏が出来たのー!」
 そう言って、黎那がはしゃぎ、周りの女子が「キャーッ」と黄色い歓声をあげる。
「えー? 誰? 誰?」
 女子達が黎那に顔を近づける。
「当ててみて」
「数学の船木先生?」
「ブッブー! てか、あのひと妻子持ちで四十過ぎてるでしょ?」
「三年の柳井美咲やないみさきさん?」
「ブッブー! 美咲さんは女子だから彼氏じゃないし!」
「陸上部の真中センパイ?」
「ブッブー! あのひと彼女いるでしょ?」
「えー? もう、わかんな~い!」
 クラスの女子達もボケるのに飽きてきたらしい。
「彼氏ー!」
 黎那が僕を手招きする。これは何かの儀式だろうか? 作り笑顔を浮かべて黎那の席に行く。
「ジャーン! この人があたしの彼氏の粕谷翔太クン!」
 黎那が笑顔で僕に向かって両手をヒラヒラさせる。女子達が棒読みで驚く。
「えー? マジでー?」
「全然知らなかったー!」
「超びっくりー!」
 女子達はよそ見をして僕の方を見ていない。完全にしらけムードだ。ガタガタッと椅子を鳴らして黎那が立ち上がり、バンッと両手で机を叩く。
「なによー! もうちょっと驚いてよ! 演技でもいいからさー!」
 女子達は自分のネイルを見つめたり、スマホを弄ったり、ファッション雑誌を眺めたりしている。
「だってさー、あんた達元々仲良かったし、意外性なさすぎだっつーの」
「そうそう、今さら? って感じ」
「それで、もうヤッちゃった?」
 黎那の顔がみるみるうちに赤くなる。
「バカー!」
 黎那が叫んでそのまま教室から飛び出した。唖然としている僕に女子が声をかける。
「早く追いかけなよ。もうすぐ授業はじまっちゃうよ?」
「うん」
 廊下に出ると階段を駆け下りる黎那の金髪の後ろ姿が見えた。慌てて走って追いかける。
 階段を下りると、一階の階段の脇の陰になった部分に黎那が立ち尽くしていて、はぁはぁと呼吸を荒くして追いかけてきた僕に、いきなりハグしてきた。僕もそっと黎那の背中に手を回して抱き締め返す。
「ねえ、ずっとこうしていたい……」
 黎那が僕の腕の中で囁く。
「僕もそうしたいけど、授業はじまっちゃうから教室に戻ろうよ」
 黎那が僕の肩に頭を擦り付ける。
「ごめんね……ワガママ言って……」
 僕は抱擁を解いた。
「いいよ、気にしないで。行こう?」
「うん」
 頷く黎那は子猫のように可愛かった。その時、僕は黎那が特別な存在であるという意識を全く失っていたんだ。みんなと同じだと思っていた。少なくともクラスメートは黎那を特別扱いせず、自然に打ち解けていた。

 放課後の部活のあと、僕は黎那とふたりでカフェに行った。そのカフェは洋館のように瀟洒な建物で、中に入ると天井に木製の焦げ茶色の太い梁があって、三角の屋根裏が見え、そこは白く塗られていた。天井が高いと広々して開放感がある。他にも学生やOLで店内は賑わっていて、半分以上の席が埋まっていた。窓際の二人掛けの席に向かい合って座る。
「今日はいつもと違うデザインなんだね、右足のソケット」
 義足のソケットが初めて見るデザインで、戦車や戦闘服と同じ迷彩模様が赤やピンクやオレンジで彩られていた。これでは逆に目立ってしまって、迷彩模様の意味がないじゃないか?
「新しい義足が出来たから、今日初めて履いてきたんだ。どう?」
「いい! 凄くいいよ!」
「そんなに目を輝かせちゃって……ばか……」
 頬を上気させて、黎那が微笑む。黎那の「ばか」は照れ隠しの時によく使う言葉だ。僕は黎那のチタンの義足を見ているだけで心拍数が二十上がった。
「ご注文お決まりですか?」
 女性店員が注文を取りに来た。
「アイスコーヒーふたつ。あと、ガトーショコラひとつとフォークふたつ、お願いします」
 黎那が笑顔で応える。
「かしこまりました」
 黎那が頬杖をついて窓ガラスの向こう側を眺め、僕は金髪ショートヘアの黎那の横顔を見つめる。ここから何を足しても引いても崩れてしまう頂点のように整っていて美しい。これは僕が黎那に恋をしているから贔屓目になってしまうのだろうか? いや、黎那は初対面の時から完璧だった。
 黎那の視線の先、窓の外にあるものを探す。黄昏時の昼と夜の境界線上の街並みが見える。夜の闇が空を覆い尽くし、既に夕日は沈み、橙色の残滓が地平線を仄かに照らしていた。家路を急ぐ人々が行き交う。黎那が見つめていたのはベビーカーを押す夫婦だった。温かい笑顔で幸せそうだ。
「いいね、ああいうの……」
 黎那が目を細めて呟く。
「うん……」
 やがて、アイスコーヒーとガトーショコラがテーブルに運ばれてきた。
「半分こしよ?」
 黎那が二本のフォークのうちの一本を僕に渡す。ガトーショコラは甘さ控え目でコーヒーに合う。
「あたしさぁ、障害者を道具として見る人が嫌いなんだよね。障害者だって人間だっつーの!
 性欲もあるし、食欲もあるし、何も変わらないのに二言目には〝かわいそう〟と言って特別扱いされる。障害者は健常者が自分の幸せを再確認するための道具じゃない。障害者は障害という悪に打ち勝ったヒーローじゃない。あ﹅た﹅し﹅は﹅同﹅情﹅な﹅ん﹅て﹅求﹅め﹅て﹅な﹅い﹅。
 感動ポルノという言葉を発明したステラ・ヤングさんが、障害者が乗り越えなければいけないのは、障害者を特別視しモノとして扱う、この社会そのものだって言ってるけど、アンタを見てると安心する。そういう壁を易々と乗り越えちゃってるから。
 アンタは陸上のハードル競走はまるでセンスないけど、こっちは才能あるよ」
「それは褒めてんの? 貶してんの?」
「どっちもよ」
 そう言って、黎那がケラケラ笑った。
「ねえ、こんど翔太の家に行ってもいい? ちゃんとご家族に挨拶もしたいし……」
「いいよ、こんどの土曜日はどう?」
「決まり!」
 僕は黎那の弾けるような笑顔に心癒やされていた。

 土曜日、僕は駅の改札口で黎那を待っていた。黎那を見つけるのは容易い。金髪の子を探して、それから脚を見ればいい。僕は黎那の義足に恋をしているのか? 黎那本体に恋をしているのか? 一体どちらだろう?
 黎那が僕を見つけて笑顔で手を振ってくる。白いフリルのついた空色のワンピースに白い靴下、赤い靴、清楚な印象を与えるファッションだ。黎那と手を繋いで歩くと、見慣れた街の風景が明るく輝いて見える。ふたりでしばらく歩いた。
「ここ、僕ん家」
「え?」
 僕が指差した先には百坪ほどの駐車場があった。黎那が戸惑った表情で僕の顔を見つめる。
「ここにマンションが建っていて、僕は中学までここに住んでいたんだ。今はもう無くなっちゃったけど」
「なあんだ。そういうこと?」
 緊張の解けた黎那が明るく笑う。
 そこは月極めの駐車場になっていて、アスファルトに四角い白い線が引かれ、白い文字で大きく番号が振られていた。アスファルトの隅のひび割れた部分から緑の雑草が生えている。空は青く、夏の日差しが降り注いでいる。片隅に看板が立てられペンキで「無断駐車は一万円頂きます」と書いてあるが、そうした看板に法的拘束力が無いことを僕は知っていた。休日のためか、駐車場の三分の一くらいが車で埋まっている。バンやセダンが多い。
 僕はかつて自分の家の玄関があった位置に黎那を案内した。チタンの右足でアスファルトを踏みしめながら黎那が素直に僕の後についてくる。
「ガチャッ。どうぞ」
 自分で玄関のドアを開ける擬音を口にして、黎那を招き入れる。
「お邪魔します」
 黎那が会釈をして玄関に入る。僕はパントマイムよろしく両手を広げて説明していく。リビングには大きなSUVが停まっていたから中には入れなかった。
「ここがリビングで、こっちが客室、ここに風呂があって、風呂には二人用のサウナもついていてジェットバスで……」
 同じ場所であることは間違いないのだけれど、そこにはもう以前建っていたマンションは存在しなかった。記憶の引き出しがガラガラとひっくり返されて、様々なやるせない気持ちが胸に去来する。あのときああしておけば、という後悔の念に捕われるが、道路に落としてしまったソフトクリームのように為す術がない。
「システムキッチンには幅一間もあるような大きな冷蔵庫があって、そんで、廊下を挟んだここが僕の部屋で……」
 そこで言葉が途切れた。心の奥底に押し込めて蓋をしていた過去の思い出が走馬灯のように蘇り、感情が溢れだして立って居られなくなった僕は駐車場の黒いアスファルトの上にしゃがみ込んでしまった。ポタポタと地面に水滴が垂れる。僕は訳も分からず泣いていた。
 ふと、背中に温かいものを感じた。黎那がしゃがみこんで、僕の背中に抱きついていた。ワンピースとTシャツの布越しにトクトクと黎那の心臓の鼓動が伝わってくる。黎那は何も言わない。僕らは暫くそこでそうしていた。手で涙を拭い、立ち上がる。黎那が僕の手に指を絡めてきた。黎那の手を握り返す。僕は何か言おうとしたけれど言葉が見つからなかった。

 無言のまま駐車場から暫く歩いて、今の自宅に着いた。それでも繋いだ手から黎那の気遣いが伝わってきたから、僕らは握った手で会話しているような感じだった。
 僕は公営団地に住んでいた。昭和に建てられたコンクリート製の団地で、外壁は雨だれが黒い染みになっていた。居住者は高齢化して減少傾向にあり、新規の入居者は少なかったから、僕と母は前のマンションから待たされることなく直ぐに引っ越すことが出来た。

 今でも僕はあの瞬間を忘れられない。笑顔で僕らを玄関に出迎えた母が黎那の右足の義足に目を落とし、汚いものを見るような蔑むような表情を一瞬見せて、それが母の本心なのだと僕は気づいた。それから母は引き攣った猿のような笑みを顔に貼り付けたまま、狭いリビングへと僕らを案内した。昭和に建てられた団地は天井が低く、落としきれない長年の汚れが壁の隅に染み付いている。僕は黎那の義足を愚弄する母の心を卑しいと感じた。そして、これもまた現実の一部なのだと認めなければならない今の状況を受け止めきれずにいた。僕は馬鹿だ。大馬鹿者だ。なぜ、あらかじめ母に黎那の義足の話をしておかなかったのだろう? 母に話しておけば、母だってもっと上手に場を取り繕うことが出来た筈だ。黎那は、母が一瞬見せたあの醜い表情に気づいただろうか? 無神論者の僕だが、黎那が気づかなかったと祈りたい気分だった。
 リビングの年季の入った四人掛けのテーブルの椅子に向かい合って座り、母がお茶を勧める。
「このひとが僕が付き合ってる城所黎那さん」
「はじめまして、お母様」
 母の表情筋がヒクヒクと引きつる。僕は脇の下にぐっしょりと変な汗をかいていた。黎那の手を取って、この場から逃げ出したい。母の態度を見ても、僕の黎那への好意は微塵も揺るがなかった。母と黎那のどちらかを選べと言われたら、ためらいなく黎那を選ぶだろう。
「うちの息子がお世話になってます。これからも仲良くしてやってくださいね」
 母の口から発せられる言葉と表情が全くチグハグだった。それから三十分ほど他愛もない話をして、お互いに知り合ったキッカケは陸上部だったという話をした時に母は目を丸くしていた。
「そろそろ失礼します。遅くなると家族が心配するので」
 黎那が笑顔で席を立つ。
「また来てくださいね」
 玄関まで見送りに来た母の表情は最後まで強張っていた。
 僕は駅まで黎那を送っていった。何を話せばいいのか言葉が見つからない。
「いいお母様ね。あたしも気に入られるといいなぁ……」
 黎那の表情からは何も読み取れない。黎那がいま何を考えているのか知りたくもあり、同時に知ることが怖くもあった。
「いや、その、うちの母は極度の人見知りで……黎那のことを気に入ったと思うよ。こんなに可愛いんだし……」
 僕は頭の中が真っ白で、しどろもどろだった。
「ばか……」
 黎那がパアッと花が咲いたような笑顔を見せる。それから駅まで何を話したのか覚えていない。黎那は僕にギュッとハグしてからパスモで改札口をくぐり、人混みに紛れて姿を消した。

 駅からの帰り道、道端でダンゴムシが交尾しているのを見た。僕らのセックスは、ダンゴムシの交尾と一体何が違うのだろう? オスとメスが交尾をしている、そこまではダンゴムシと同じだ。ダンゴムシは受精目的で交尾をしている。僕らのセックスは受精が目的じゃない。快楽のため? 或いは愛情確認のため? もしかしたら、より純粋な目的で交尾をしている分だけ、ダンゴムシの方が僕らより崇高な行為をしているのではないだろうか? 道端にしゃがみこんで、そんなことを考えているうち、急に視界がぼやけた。最近、涙脆くなったように思う。こんな僕の精神は老いたのだろうか? それとも幼くなったのだろうか?

「ねえ、言いにくいことなんだけど……」
 その夜、母が僕の部屋のドアに寄りかかって話しかけてきた。身体を半分隠しているのは、少なからずやましい気持ちがあるからだろう。
「なんだよ? 早く言えよ」
「あの子、黎那さん。とてもいい子だとは思うのよ。でも……」
「だから、なんだよ?」
 つい、声を荒げる。自分でも驚くくらい大きな声が出た。
「その、手足のない赤ちゃんが産まれてくるってことはないのかしら?」
 僕は言葉を失った。そんなことは気にしたこともなかった。僕は黎那が右足を失った理由を知らない。病気か遺伝か事故か、何も知らない。
「そんなこと知らないよ。どうして右足を失ったのか聞いたことないから」
 母は戸惑ったような笑みを浮かべた。ゾッとするような生気のない笑みだった。
「そう、それならいいの。ごめんなさい、変なこと聞いちゃって……」
 母はスッと姿を消した。

 黎那が右足を失くした理由に興味がないと言えば嘘になる。でも、それはやっぱり聞いちゃいけないコトのような気がして、これまで尋ねたことが無かった。
 よく考えてみれば、母の心配も判らないことはない。でも、結婚とか子供とか高校生の僕にとっては、ずっと先のことで正直考えたこともなかった。ただ、自分がそれを知らないことに気づくと知りたくなってきた。僕の知らない黎那の右足の歴史に興味が湧いてきた。子供への遺伝とか、そんなことはどうでも良くて、黎那のことをもっと知りたいと思った。

 次の日の昼休み、僕らはグラウンドの木陰のベンチに並んで腰掛けて焼きそばパンを頬張っていた。
「どうしてあたしが右足を失くしたか聞きたい?」
 黎那の唐突な問いかけに僕は意表を突かれた。
「いや、べつに、その……」
 本当は昨日から気になっていたけれども、それを口にするのもためらわれた。自分の中でそれを尋ねたい欲求が振り子のように揺れていた。ただ、それを悟られまいと必死だった。
「あたしが話したいの。聞いて?」
「うん」
 そう言ってくれて楽になった。もしかしたら、僕の表情を読み取って気遣ってくれたのかもしれない。
「中学の時に白いヘルメットを被って自転車通学していて、スマホを見ながら運転してたのよ。スマホに気を取られてトラックに自転車ごと巻き込まれて……
 右足だけで済んで幸運だったって医者に言われたわ。まぁ、ふつートラックに巻き込まれたら死んでるよね」
 あっけらかんと話す黎那の表情には微塵も暗さを感じない。
「痛かった?」
 そう口にして言葉を発し終わる前に後悔した。僕はなんてデリカシーのない質問をしてしまったのだろうと、自己嫌悪に陥った。
「痛かったっていうか、覚えてないのよ。事故の前後の記憶がないの。気がついたら病院のベッドの上に寝かされていて、その時にはもう右足は切断されてギプスを嵌められてたわ」
 黎那が僕のバツの悪そうな表情に気づいたらしい。
「そんな顔しないで。もう同じ質問に慣れてるから気にしないで」
 そう言って、僕を安心させるように微笑む。僕はその微笑みに母性を感じた。
「自分のせいでこうなったから、あたしを感動ポルノの道具にして欲しくないんだよね。
 それに、あたしは右足以外に一体なにを失ったのかな? とも思うし。寝たきりでも車椅子でもないし、何も薬も飲んでないし。
 松葉杖なしに歩くことも走ることも出来るし、健常者と比較して負い目を感じるシーンがない。
 義足も最初のうちは奇異な目で見られることもあったけど、段々と周りも慣れてきて日常に溶け込んで目立たなくなった」
 フッと言葉が途切れる。
「あとは、こんな身体だから恋人ができるかどうかってことが最後の心配だったけど、今は翔太がいるから……」
 キスは焼きそばパンの味がした。

 僕は黎那に言えない秘密があった。父のことだ。
 最初のうちは父はマ﹅ト﹅モ﹅だった。いや、少なくとも周りからはそう見えた。父は少しずつ狂っていったから、家族や親戚や友人など周りの者はそれに気づかなかった。僕の父は会社の社長をしていた。会社を起業したのは祖父で、父の代の時には、僕が中学まで住んでいたマンションや他にも貸ビルや駐車場を所有する不動産会社の社長だった。何がキッカケだったのか判らない。ただ、その過程だけは、後から話を聞いて漠然と判っている。父が社長をしていた当時、マンションでちょっとしたトラブルがあった。頻繁に見知らぬ男性が次々と同じ部屋に入っていくという住民からの匿名の通報で、合鍵を使って中に入ると下着姿の若い女性が何人も居た。その筋の奴が経営している違法な風俗営業で、父はそうした方面に明るい強面の弁護士を雇って上手く抑えて追い出してもらった。父は気前良く相場よりも相当高い報酬をその弁護士に支払い、それ以来、その弁護士と懇意になった。父はその弁護士に連れられて初めて韓国バーに行った。ここで間違えていけないのは、決して韓国バーのママやホステスが悪い訳ではない。その韓国バーには父以外にも大勢の客が通っていて、他の客がその店で騙されて被害に遭ったという話は聞かないから、父の方に原因があった。父はどこかで頭の回線が切れてしまったのだ。父はうちのマンションに韓国人ホステスを住まわせて、彼女らは3DKの部屋に五人くらいで住み、「マンションの家賃を払うから店に来て」と言われた父はノコノコと店に出かけていき、渡された家賃を全部その店で飲んでしまうのだった。或いは家賃を一年以上、滞納した挙句に家賃を支払わないまま韓国に帰ってしまう者も居た。普通なら、そういう痛い目にあえば学習して次からは気をつけるものだが、父にはそういう学習能力が欠けていた。やがて、年寄りの歯が抜けるようにマンションから日本人が姿を消し、父は空いた部屋に次々と韓国人を住まわせた。慈善事業でもやっているつもりだったのだろうか? 父はお世辞と判っていても他人から褒められたい性タ質チで、まだ銀行ローンが残っているマンションが赤字になっても、未来のことなどはこれっぽっちも考えず、その日の享楽に溺れていた。父が死んだ後で判ったことだが、父は韓国人をマンションに住まわせるのに契約書ひとつ書かせていなかった。韓国人ホステスらは、内心では父を阿呆と思いながら、店で金をばら撒く父を上辺だけはおだて持ち上げていたのだろう。実のところ、僕がこれまでに実際に会ったことのある人の中で父が最も阿呆であることは間違いなく、しかもそれが肉親であるということが堪らなく悔しかった。
 ある時、僕がマンションの駐車場で自転車の修理をしていると父が出てきてソワソワして「何をやっているのか」と尋ね、僕のことを追い払いたい様子だったが、僕は父に気を遣わなければならない理由もないので、構わずに自転車の修理を続けていた。暫く経って、歳の頃三十くらいの美人が駐車場に現れた。父は韓国人ホステスと逢引きする待ち合わせ場所に駐車場を指定していて、そこに僕が鉢合わせしてしまったのだ。それから暫く経って、件の女性をマンションで見かけた。その女性は赤子を腕に抱えていた。あの赤子の父親は誰だろう? それを考えるとゾッとした。もしかしたら僕には異母兄弟が居るのかもしれない。
 まだ多額のローンが残っているのにマンションは大赤字で、株式会社になっていたのに監査役は全くその任を果たしていなかった。株式会社には取締役三名以上と監査役一名以上が必要だったものの、それらは父の兄弟や親戚で占められていて、しかもその兄弟や親戚も阿呆揃いで、会社の経営が傾いていることに気づいて集まっても、まるで烏合の衆で父の凶行に気づくことさえ無かった。
 その頃、父が夜中に大きな呻き声をあげて騒いだことがあった。「救急車を呼ぶな」と、うわ言のように繰り返していたが、母が救急車を呼び、病院に搬送された父の病名は脳梗塞だった。生まれてこのかた一度も入院を経験したことがなかった、人間ドックさえ一度も受けたことがなかった父は自分の病名を医者から告げられるのが怖かったのか、それとも病院そのものが怖かったのか、父が死んだ今となってはどうにも判らないのだが、少なくともその時、父は獣のように吠えてベッドの上でのたうち回りながらそのまま死にたかったのだ。
 父の入院した病院に見舞いに行った時、僕は自分が家族であることが恥ずかしくなるような父の醜態を目にした。父は集中治療室に居て、点滴の管や、様々な医療機械の配線に繋がれた状態で看護師を口説いていた。お気に入りの看護師が来ると鼻の下を伸ばし、嫌いな看護師が来ると怒鳴りつけていた。人は歳をとると理性を失って本性が見えてくる。年寄りが皆、温厚な性格で、物知りで、困ったときに知恵を貸してくれる頼りになる存在とは限らない。意地悪で世間知らずで何の特技もない年寄りも居て、しかもそれは思いのほか多いのだ。父も理性を失って助平な本性が出たのだろう。もしも、あの時に父が脳梗塞で死んでいたならば会社は倒産せずに済んだかもしれない。しかし、進んだ現代医療技術のお陰で父は生き延びてしまった。挙句の果てに、父はマンションの赤字を埋めるために貸ビルの賃貸料でマンションのローンを支払っていた。そうまでして、韓国バー通いを続けたかったのだ。

 父が亡くなったあと、自分の知らないところで何が起きていたのか朧気に輪郭が見えてきて、何故ああなってしまったのか、図書館やネットで調べた。そして、ギャンブル依存症や買い物依存症と同じく、父は依存症気質にまんま当て嵌ることに気付いた。依存症と診断されるひとつの指針は、ギャンブルでも買い物でも自分の得ている収入以上に支出が増えてしまう場合だ。その指針から言えば、父は韓国バー依存症だった。母に指摘されるまで、すっかり忘れていたけれど、現代医学では遺伝子的要因が依存症を誘発する可能性が指摘されている。

 僕がまだ中学生だった九月の或る夜、大型台風が東京を直撃している最中、父は「煙草を買いに行く」と言い出した。外は風速二十メートルの激しい嵐だ。僕と母は必死に父を止めようとした。
「煙草なんて明日でもいいじゃありませんか!」
 父の腕にしがみついて母が叫ぶ。
「今じゃなきゃ駄目なんだ」
 そう応えた父の目つきが尋常じゃなかった。なんだかまるで濁った魚のような目をしていて焦点が定まっていなかった。父は母の腕を振りほどき、玄関から外へ飛び出した。
 父を追いかけると、外は誰ひとり歩いてなくて、というより強風で傘は直ぐに骨が曲がって裏返しになって役に立たないだろうし、看板とか瓦とか木の枝とか何が飛んでくるか判らないし、そんな嵐の中に飛び出していくなんて狂気の沙汰だから誰も歩いてなかったんだ。風に飛ばされた様々なゴミが路上に散乱していた。黄色いゴミ袋や葉っぱや倒れた自転車や新聞紙、空は暗くて何も見えなくて、マシンガンの銃弾のように雨粒が降り注いでいた。
 ゴオオオオオと凄い音で風が唸り、街路樹がへし折れて道路に転がり、それに引っかかった電線が切れて地面でバチバチと青白い火花をあげていた。僕の顔に雨が痛いほど叩きつける。路上に出ると、父の後ろ姿が見えた。もう追いつけないほど遠くを裸足で駆けていた。なぜ裸足で台風の中を煙草を求めて駆けていく? 靴で滑って転ばないように? 或いは靴を履き忘れた? なにもかもが僕の理解の範疇を超えていた。暴風雨のなか、真っ暗な夜道を裸足の父が後ろ姿で駆けていく。それが生きている父を見た最後の姿だった。
 あくる日、台風一過の雲ひとつない真っ青な空の下、神田川にうつ伏せで浮かんでいる父の死体が見つかった。自殺をほのめかすようなメモも遺書も見つからなかった。司法解剖をしても、事故とも自殺とも結論は出なかった。
 兎も角、父が死んでこの世から居なくなってから、逆に見つかったものがあった。多額の借金だ。父が社長をしていた不動産会社は既に返済能力を越えて倒産目前だった。僕と母は家も土地も財産と呼べるものを一切合切全て失い、逃げるように公団住宅に引っ越した。それまで住んでいた豪勢なマンションとは異なり、薄汚れた壁の天井の低い団地は文字通り息苦しさを感じた。それからは、児童扶養手当と母のパートの収入でつましい生活をすることになった。母が借金に耐えかねて自己破産するとき、家具や衣類や電化製品は没収の対象とならなかったから、団地の狭いリビングに不釣り合いな五十インチ液晶テレビが鎮座していた。裕福だった頃の名残のそのテレビを見る度、僕はやるせない過去への追憶にさいなまれた。

 そうだ。狂人の気質が遺伝するかもしれない不安要素を抱えているのは僕﹅の﹅方﹅だ。喩え親兄弟であっても親友であっても恋人であっても口にできない秘密があって、その秘密を口にした途端にそれまで築き上げてきた相手との人間関係が砂上の楼閣のように簡単に瓦解してしまう、そんな脆さを僕は自覚し尚且つ畏れていて、僕は黎那に自分の父親が狂っていたという事実を話すことは出来なかった。僕は卑怯者だ。僕は、僕は自分を恥じた。


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发表于 2022-10-21 15:45:19 来自手机 | 显示全部楼层
来个大神给翻译翻译吧
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发表于 2022-10-21 17:51:39 | 显示全部楼层
看不懂啊大佬
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发表于 2022-10-21 23:30:24 来自手机 | 显示全部楼层
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发表于 2022-10-22 01:38:47 | 显示全部楼层
她只有一条腿  --  土天门靖

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一个孤独的女孩在湛蓝的天空下穿过校园。女孩没有右腿。我爱上了那个女孩
 盛夏的阳光无情地照在干燥、尘土飞扬的大地上。棒球和足球俱乐部都在用自己的脸占领球场,而田径俱乐部已经被逼入绝境。实在忍不住,就在校外的人行道上跑来跑去,兜兜转转。此外,练习 50 米和 100 米跑。烈日下,棒球和足球俱乐部,他们的制服沾满了泥土,在浅褐色的土壤上奔跑着互相吼叫。我们棒球队从来没有去过甲子园。该足球俱乐部从未在全国比赛中获得最高奖项。看起来他们是想通过运动来升华高中生多余的能量,但不幸的是,全身心投入运动并不会减少他们的能量。他们徒劳地咆哮和狂怒,最后他们似乎骨头都断了。天热了,没什么。
 我对棒球或足球俱乐部没有丝毫兴趣,属于田径俱乐部。不,准确地说,它是在陆地上,在陆地上,它的味道是什么?在我的视线前方,是一把由碳制成的黑色刀刃。碳素板簧弯曲并发出吱吱声,与刀片相连的身体振动。溅出的汗水在空中闪闪发光,被干燥的地面吸收。一个女孩长长的四肢左右伸展着穿过地面。我加入田径部是因为我想更接近这个女孩。

 我住在远离市中心的乡村小镇,即使在东京,车站附近也有一片大田野。不过,自从我出生在这样的环境中,我已经习惯了,并没有太多想要住在市中心的欲望。偶尔去涩谷的时候,人多得连走路都走不了,感觉被困在马路中间,连街上的巨型显示器连着的扩音器都被我不知道的化妆品广告轰炸不想听,我周围的人都屈服了。我的耳膜很痛,因为我说话的声音太大了。汽车尾气很严重,我想如果我在紧急交叉路口站一个小时,我可能会得哮喘病。比如涉谷的夜店、DJ、模特等等,都跟我没关系。这就是为什么我更喜欢我的乡下小镇而不是涩谷。
 即使我乘坐京王井之头线,我也经常在下北泽下车而不是涩谷。下北泽是一个神秘的小镇,看起来就像一个被掀翻的玩具箱,那里有一种只能体验的文化。可以是在一家优雅的咖啡店喝杯咖啡,也可以是在汽车无法通行的狭窄错综道路尽头的小剧院里看一场戏剧。您可以在涩谷买到的东西现在可以在线购买。但你永远无法在网上买到下北泽的氛围。下北泽有那种只有在那里才能体验到的现场感。

 我第一次见到她是在高中入学典礼上,她有一头金色的短发,一张希腊雕塑般的脸,胸前系着校徽的西装外套,胸前系着一条红色的缎带,身上系着红色的格子。衬衫。她穿着迷你裙,左腿只是一条正常的腿。在他的右腿上,他穿着一条深褐色的乐福鞋,搭在一根散发着暗光的钛制圆棍上,一个黑底金漆装饰的插座和一个球形接头。没有拐杖,没有轮椅。我站着,用自己的脚走路。有光泽的银色钛金属腿很性感。如果它只是钛,它只是一个金属棒。然而,通过支撑女孩的体重,钛棒已经成为女孩身体的一部分。我嫉妒得发狂。我也想要那条假腿。因为实在是太酷了。但因为我有两条腿,我不能戴假腿,我什至不能截肢。我嫉妒那个女孩有我永远得不到的东西。
 高中的入学典礼在体育馆举行,无数的烟斗椅一字排开,从一年级到三年级的学生坐在椅子上,身后,盛装打扮的家长坐在烟斗上椅子。校长乏味的讲课,一年级代表的问候,PTA的贺词,一个接着一个,没有一句让我感兴趣的单腿女孩。即便如此,一头金发出席入学典礼还是让人心碎。不,确实在我的高中,衣服宽松,制服或便服都可以,发型和发色没有规定。不过,不愧是入学典礼上的一年级学生,只有那个女孩是黑色或棕色的头发,金色的头发。你不能站出来被欺负吗?不,说起来显眼,本来就是因为假腿。

 一次偶然的机会,我和那个女孩在同一个班。学校是一幢混凝土建筑,似乎是二十年前建成的,地板是木头,四处散落着方块。墙壁和天花板都涂成奶油色,污渍和涂鸦很显眼。走廊一侧有磨砂玻璃窗,教室前后有推拉门。我坐在靠窗的中间位置,只是看着斜坐在我面前的金发女郎。  「……君,……君,这里有霞也翔太翔太吗
?」 “是!我来了!我来了!”  女孩转身看着我,轻笑道。那笑容可爱得像雪花开了一样。我的心怦怦直跳,那一刻我知道我爱上了这个女孩。我感觉像是一种无法控制的本能,而不是理性。我一个人在教室里,被我这辈子从未经历过的“爱上某人”的感觉弄糊涂了。 “Kidokoro Kidokoro Reina Reina同学,”  金发少女举起右手答道:“是的。” (很漂亮,嗯……)  我在笔记本上记下了名字,以免忘记。  午休时间,女孩们聚在一起吃午饭。我和雷纳在一起。









 我不喜欢女生们大声的笑声,但又不想在教室里指出来被骂,所以我忍着,默默地吃午饭。说是奇怪的时代,即使筷子翻过来也很奇怪,为什么只在初中和高中的这段时间里,紧张情绪会上升这么多。我敢肯定这和第二性征、荷尔蒙等有关,但是当我以大约 100 分贝的音量说话时,我不禁感到精神错乱,就像在火车的看守下一样。没有。
“你有什么爱好吗,基多克罗先生?
 ” 我敢肯定,明天我就会成为一个混蛋。
“我的爱好是田径。”
 一瞬间,一个天使从身边经过,教室变成了场景。
“哦,你在跟我开玩笑!”
 一声干巴巴的笑声响起。女孩的嘴巴因困惑而抽筋。
“我不是在开玩笑,我是认真做田径的。今天放学后我要去报到加入俱乐部。
 ”

      *

 一年过去了,我十七岁。初中的时候,虽然只上过两节体育课,但我还是加入了田径部。因为我想呼吸和蕾娜一样的空气。
“我的目​​标是残奥会”
 说着,蕾娜在田径部的房间里,在我面前的蓝色长椅上坐了下来,换上了像钢板弹簧一样的运动假腿。雷娜换假腿时,我看到她右腿被截肢的表面是性的对象。我在雷纳的右腿被截肢的表面感觉到了色情,这是学校里没有其他人有的。有时我分不清我是喜欢雷纳还是更喜欢雷纳被截肢的右腿。但至少它是一个,所以你喜欢哪一个并不重要。
 上下两层的灰色更衣室,中间放了两张蓝色长凳,方便换衣服。即便是开着窗户,俱乐部房间里也充斥着刺鼻的汗臭味,让我想吐,但我还是优先考虑和蕾娜待在一个空间里的情况。阳光透过窗户照进来,尘土飞扬。阳光洒在身着田径部红色制服的蕾娜斜下半身。
“我确信我可以去参加残奥会。”
“我不需要奉承。
 ” 从那个表情我看不出什么。
“我不是在恭维你,你的时代越来越好了,你不是比  我快
吗?” “太可怕了……”  话虽如此,我还是很高兴能和蕾娜对话。 “那很贵,不是吗?用碳制成的假腿。”





 “是啊。大约120 万日元?”
“诶?你要那么做吗?
” 1000日元,不然我早就放弃田径
 了。
“对了……”
“喂,我们去练习吧!”
 雷纳打开会所的铁门,跳到了地上。

 我该如何向你解释我的这种感觉?对蕾娜失去的右腿的喜爱,对无法拥有的东西的向往,一丝丝的恐惧,以及各种无法言说的情绪,都在脑海中混杂着,内心充满了蕾娜。人们称这为爱吗?不,我认为可以肯定地说,好奇心或这种痴迷是恋物癖,而不是爱。我无法自己组织自己的情绪。失去理智,情绪失控。我的疯狂正在加速。

 900名高中生中,只有蕾娜一个,与其说是缺点,不如说是个性,是“美”分。黎明是我一生都在模糊的感觉中生活的问题的答案。我没有。

 我讨厌跟随人群。从我记事起,我就有一种偏爱法官的倾向,而且我认为我更有可能是天生就有这种性格,而不是某种事件的结果。。世界上是有坏人的,我认为有人被周围人的影响染上了邪恶,但也必然有坏人,生来就本性腐烂,这不偏向于善恶理论,但两者都是可能的。这就是为什么在17岁的时候,我认为这是真的,或者更确切地说,我找不到任何相反的证据。如果我接到“向右转”的命令,我倾向于向左转。不一定是正确的做法,因为它得到了大多数人的支持。事实上,考虑到希特勒也是民主选举产生的,不是通过政变上台的历史事实,显然群众往往容易激动,我不禁强烈感受到意识形态的脆弱性。所以我对高收视率的电视剧或者票房收入超过100亿日元的电影这种宣传口号完全不感兴趣。增加观众数量,无非是被绑在电影院的椅子上直到无聊的故事结束的折磨。没有。我之所以在演出中途不离开座位,是因为我可能会看到出乎我意料的最后一幕,那样我可能就不必把电影费付诸东流了。电影院的黑暗监狱,我看的电影都是对孩子的折磨,但我总是看到最后一幕完全符合我的预期,我感到绝望。我曾经在回家的路上回到家。所以我 总是质疑常识。事实上,对黑人的歧视在 1960 年代在美国已经常态化,没有人对此提出质疑。现在是不可想象的,但美国人歧视黑人是常识。林肯总统著名的葛底斯堡演说“人民的政治、人民的政治、人民的政治”中没有包括黑人。黑人被视为与白人不同且劣等的种族。反种族主义活动家简·艾略特女士的“用眼睛的颜色歧视学生”体验歧视课,可见黑人歧视有多荒谬。黑猩猩婴儿模仿他们的父母。同样,人类可能会不自觉地将歧视和迷信作为模因代代相传。在 1950 年代和 1960 年代,原子弹和氢弹试验在世界各国频繁进行。污染成为一个社会问题,地球遭到破坏。如果原文是正确的,“人类已经足够优越,可以控制全球环境”,这不是一种傲慢吗?在现实中,人类只是地球生命链条中的一小部分,而现在进入 21 世纪,我们迫切需要全球变暖对策、风力发电和电动汽车。换句话说,过去的大多数人类都犯了一个大错误。对地球来说,人类就像一种讨厌的艾滋病病毒。今天,死于痢疾的人数远低于过去。病毒似乎知道,如果宿主死了,它也会死去,然后进化并变得毒性降低。人类,对地球来说是一种令人讨厌的病毒,可能会变得不那么有毒。我可以看到对黑人的歧视是多么荒谬。黑猩猩婴儿模仿他们的父母。同样,人类可能会不自觉地将歧视和迷信作为模因代代相传。在 1950 年代和 1960 年代,原子弹和氢弹试验在世界各国频繁进行。污染成为一个社会问题,地球遭到破坏。如果原文是正确的,“人类已经足够优越,可以控制全球环境”,这不是一种傲慢吗?在现实中,人类只是地球生命链条中的一小部分,而现在进入 21 世纪,我们迫切需要全球变暖对策、风力发电和电动汽车。换句话说,过去的大多数人类都犯了一个大错误。对地球来说,人类就像一种讨厌的艾滋病病毒。今天,死于痢疾的人数远低于过去。病毒似乎知道,如果宿主死了,它也会死去,然后进化并变得毒性降低。人类,对地球来说是一种令人讨厌的病毒,可能会变得不那么有毒。我可以看到对黑人的歧视是多么荒谬。黑猩猩婴儿模仿他们的父母。同样,人类可能会不自觉地将歧视和迷信作为模因代代相传。在 1950 年代和 1960 年代,原子弹和氢弹试验在世界各国频繁进行。污染成为一个社会问题,地球遭到破坏。如果原文是正确的,“人类已经足够优越,可以控制全球环境”,这不是一种傲慢吗?在现实中,人类只是地球生命链条中的一小部分,而现在进入 21 世纪,我们迫切需要全球变暖对策、风力发电和电动汽车。换句话说,过去的大多数人类都犯了一个大错误。对地球来说,人类就像一种讨厌的艾滋病病毒。今天,死于痢疾的人数远低于过去。病毒似乎知道,如果宿主死了,它也会死去,然后进化并变得毒性降低。人类,对地球来说是一种令人讨厌的病毒,可能会变得不那么有毒。
 我从不讨好别人,所以我心里一直有一个孤独的自己,但我尽量不表现出来,表面上与周围的人融为一体。这很烦人。即使你指出周围人的错误并批评你的缺点,你最终也会在学校被欺负,并把自己关在家里。我不想因为我来自一个永远不能说是富有的没有母亲的家庭,而以这样的小顽固来打扰我的母亲。出于如此琐碎和世俗的原因,我一直在压抑自己。
 我特别怀疑每个人都说好的东西。我更怀疑批评家和学者说好的东西。出于某种原因,有些人没有独立思考的能力,就像机器人一样,当某个疯狂的老师说“这是件好事”时,他们就会跳起来。曾几何时,一个关于健康的计划风靡一时。节目《吃纳豆可以减肥》的第二天,纳豆就从超市的货架上消失了。当然,无论你吃多少纳豆,都没有办法减肥。他不为自己考虑,毫无疑问地接受别人所说的话,尤其是一位伟大的老师所说的话,就像他感谢的经文一样。也许这就是正在发生的事情?与其为自己考虑,不如不为自己考虑,如果你毫无疑问地接受别人所说的并四处传播你自己的观点,这可能会“比不必为自己考虑更容易”。即使它最终被希特勒欺骗。随着年龄的增长,我开始意识到一些可怕的事情,但也许“放弃了自己思考的机器人人类”,或者除非别人命令什么都做不了的“等待指示的人类”,才是社会的一部分. 他们不是在分一杯羹吗?他们想成为什么?在欧洲和美国,很少有人上大学并找到他或她在大学所学专业之外的工作。然而,在日本,我进入了大学,甚至没有决定我将来想进入什么样的公司。30%的人在三年内离开公司。我不明白为什么父母要支付孩子昂贵的学费和生活费送他们上大学。我对被认为是好的事物持怀疑态度,相反,我对被认为是坏的事物持怀疑态度。曾经是歧视和嘲讽对象的LGBT人群,现在越来越多地走出来了。雷纳显然是那条线的延伸。曾经有一段时间,残疾人在日本和海外都受到歧视。稻田。有一次 T4 手术,纳粹德国试图根据优生学对残疾人和患有疑难杂症的患者实施安乐死。近日,日本一家残疾人设施发生了一起悲惨事件。最近,直到 1996 年,即使在日本,根据优生保护法,也进行了通过手术切除智障人士子宫的野蛮行为。原因甚至不是优生的想法,而是因为照顾智障女性的月经很麻烦。
 不管说是好事还是坏事,我从不认为是理所当然的。稻田。当然,作为一个17岁的人,知识、经验、人脉有限,我也有无法回答自己的判断是否正确的时候,也有犯过错误的时候。但是,我觉得自己思考和做决定的过程也很重要。

 那是一个炎热的夏日。尽管我加入田径俱乐部已经一年了,但我仍然无法改善自己的时间。有。自从我成为社会一员之后,锻炼身体的机会就大大减少了。他每次都这么说,当然这只是一个借口和权宜之计,只是为了时间和雷纳在一起。是,他保持着薄薄的皮肤。虽是俱乐部练习时间,却看不到蕾娜,夏日的阳光仿佛穿过我的头骨,直接灼烧着我的大脑,他们就像地上的僵尸一样四处游荡。
 我找到了教学楼的影子,没有暴露在强烈的阳光下,这让我感到比炎热更讨厌。校舍的阴影里有一位以前的访客,我可以看到田径俱乐部的红色制服。是蕾娜吗?但与我不同的是,雷纳不应该跳过田径练习。朝那个方向走得更远,我碰巧看到了我不应该看到的东西,或者更确切地说,我不想看到的东西。在没有阳光照射的校舍的树荫下,玲奈仿佛隐藏着不可告人的秘密,亲吻了田径部的学长真中四郎。蕾娜踮起脚尖,脚后跟抬起,长长的睫毛紧闭,沉浸在这个吻中。一股嫉妒的火焰燃烧起来。然而,场景也很美,就像一幅文艺复兴时期的画作。黑色碳素刀片假腿是重音,我想把它放在框架中并在美术馆展出。
 我的鞋子发出声音。我分心了,发出了声音。就像一只偶然遇见我们的流浪猫睁大眼睛,绷紧肌肉做好准备,以便立即进行下一个动作,我们两个用比我还原始的眼睛看着我。人类。盯着看。无法忍受寒冷的空气,我转身背对着他们,拼命逃跑。

 即使回到家,我的脑海里也充满了蕾娜。Reina 和 Manaka 约会吗?但我从未听说过这样的事情。此外,我也没有经常看到他们在一起。你们两个在约会吗?你们交往多久了?你已经完成了吗?世界上的一切都失去了颜色,看起来都是灰色的。各种疑惑在我脑海中盘旋,那天我无法入睡。

 第二天,我红着眼睛去上学。毕竟,我没有在桨上睡觉。我的眼睛下面有很大的黑眼圈。人们给你看的不是这张脸。咔嚓一声,打开教室的推拉门,进入里面。今天早上,女孩们也在教室里吵闹。我一言不发,把包拖到座位上。斜对面的蕾娜和其他女生一起尖叫。就好像昨天什么都没发生一样。也许昨天的事情是我看到的白日梦?不,这无可否认是真实的。但我不想承认,想逃避现实。

 在我的国家上课的第一个小时,我收到了一封折叠成六边形的信。打开包装,上面写着棱角分明的gyaru字:“午休,我在屋顶等你。” 雷纳”是这样写的。我不由自主地看着蕾娜。蕾娜正在将黑板上用粉笔写的白色字母写在笔记本上。

 午休时间,我心怦怦地跳上楼梯到屋顶。我的身体在颤抖,我的腋下出汗了。连我紧握的手都在冒汗。胃液反流,苦味在口中蔓延。我害怕屋顶上等着我的东西,仿佛被拖进了黑夜的大海,却又无法放慢脚步走向它。通向屋顶的墙壁是灰蒙蒙的灰泥,楼梯是油毡,到处都是裂缝。当我打开屋顶的门时,黑色油漆的角落已经褪色,红色的锈迹突出,蔚蓝的天空展开,右腿假肢的雷纳站在屋顶的灰色混凝土上。
“喂,你在说什么?”
 我故作镇定,抬手靠近了雷纳。
“那双眼睛怎么了?”
 蕾娜面无表情地问我,就像能乐面具一样。
“不,我昨天都做了……”
“会不会是我的错?”
 蕾娜用责备的眼神看着我。
“不,这是……我玩了太多游戏,结果都玩完了……”
“这是什么游戏?
 ” 我觉得自己走投无路了。我越不耐烦,我就越失去理智。
“嗯,就是这样……”
 游戏的名字没有出现。
“对不起。”
 蕾娜移开视线,低下头。
“嗯?”
 我不明白。
“昨天不一样,我学长高三马上就要毕业了,所以才让他亲我一口留着回忆,他有  女朋友
 ……所以没什么。”
它很重,不能支撑自己的重量。
“Kyaah!”
 当她看到我坐在屋顶的混凝土上时,Reina 尖叫起来。看起来你坐得笔直,只有你的上半身向上。蕾娜坐下。在我面前,有一条暗淡的银钛假腿。比起蕾娜超短裙下的浅蓝色短裤,我更想看看钛合金假腿。  “怎么了
?你没事吧?”
我的脸映在蕾娜的大眼睛里。
“不,相反,我还好,我松了口气……”
 雷纳轻笑道。
“你知道吗?翔太的表情很容易理解,不是吗?你能
 站起来吗?”
 蕾娜站起身来拉住我的胳膊。我站起来拍了拍裤子上的灰尘。
“你不是应该早点离开还是在医务室睡觉?”
 雷纳抬头看着我,眼睛上翘。可爱的动作让我心跳加速。
“是的。”

 最终,我知道马纳卡什么都不是,我无处可去的挫败感散落在空中。蕾娜为什么要告诉我她为什么吻马纳卡?因为你不想被传闻?但是,蕾娜应该知道,我是那种不那么八卦的人。因为你不想让我误会你?因为你想解开我的误会?但是有必要吗?如果他把我当成一个完全陌生的人,我相信他不会想澄清任何误解。也许只有一次机会?不知道蕾娜和我是不是被一根似乎随时都会断掉的细线连接在一起。在我的脑海里,我一直在问我找不到答案的问题。
 想了三天后,我发现自己永远也找不到答案。我看不到雷纳的内心。答案就在雷纳身上。“敲它,它就会打开”,这不是圣经所说的吗?我决定尝试接近雷纳,并打算放弃。这比降落客机更难。如果客机降落失败,它会在不降落的情况下加速并再次起飞,并可以从头开始重新开始降落程序。但是,如果接近雷纳失败,那将是一场灾难。没有下次。然而,为了结束我担心了三天的感情,我只好挑战危险的着陆。

“我有两张这部电影的优惠票,要不要跟我一起去?”
 田径部练习结束后,我洗了个澡换上制服,在回家的路上把票递给了雷纳. 雷娜身着短袖制服,搭配红色格纹超短裙,右腿是一条黑色背景的银钛金漆假腿。双脚穿同样的乐福鞋。只有右腿是机械的,看起来像半机械人,很酷。蕾娜的眼睛闪闪发光。 “  我 想看
这部电影!我精神抖擞。这是我和雷纳的第一次约会,或者更确切地说是我和一个女孩的第一次约会。紧张、焦虑和期待是混合的。我给票的电影是一部情节剧,与我的口味相去甚远,但我选择了女孩喜欢的电影。周六我选择了印有美国英雄人物的黑色 T 恤、做旧牛仔裤和 Vans 运动鞋。  周六,我们在涩谷的莫亚雕像前见面。漆黑的莫亚雕像周围是等待见面的人,工薪族、女孩和美国佬之间没有统一。灰色的混凝土中,蕾娜显得格外醒目。金色短发,宽下摆的少女碎花连衣裙,钛金属右腿脚踩红鞋。非常漂亮。我朝蕾娜挥了挥手。 “等等!”  蕾娜微笑着挥手。 “你要去哪里?” “马库对面的  电影院。 ” “相机店旁边的那栋楼?”











“是啊,不错。” “好。”

 离开了莫亚雕像的人群,朝着警卫下的信号走去。停车,因为红绿灯是红色的。蕾娜站在她身边的手,只要伸出手,就触手可及。我想和蕾娜牵手。但我们仍然不是恋人。一种微妙的距离感干扰了我的冲动。
 灯变绿,你走开。当我走在红绿灯的中央时,我听到从某个地方传来“可怜的东西”的声音。只有那些文字的轮廓从人群中脱颖而出,刺穿了我们脆弱的心。这话分明是针对蕾娜的。我同时感到愤怒和困惑,但我不知道把它们放在哪里。蕾娜张开嘴。
“当人们说对不起时,我感到很不舒服。我可以不用拐杖走路和跑步,也不吃任何药。我可以像一个健康的人一样生活,但人们说我很抱歉。我不” “不知道是什么意思。
 对我来说,日常生活就在那里,我不认为这是‘可怜的日常生活’。”
 我感觉到雷娜的目光中带着一种凝重的美,她径直走在前面。
“我爱你,蕾娜那种东西。”
 蕾娜冲我笑了笑,握住了我的手。湿润而温暖的双手。

 爬道玄坂,有一个电影院,我们的目的地就在那里。我不太记得这部电影的名字,但它有一个非常戏剧化的名字,比如“爱是超越时间”之类的。电影院综合体是多个电影院聚集并同时放映多部电影的一种形式,通过整合售票处和mogiri可以节省人工成本。所有电影都经过数字放映,没有放映员。我们也在努力降低这里的劳动力成本。加网分辨率全高清,画质不如4K。看来人眼能分辨的分辨率极限是8K。35mm胶片的分辨率比全高清要高,但是如果你多次重印,分辨率会下降那么多,而且35mm胶片会被划伤,光是重复放映就会改变颜色。从这个意义上说,数字放映还有一个优势,即在放映的第一天或最后一天,图像质量不会发生变化。
 电影院的大厅很大,大概是因为电影院很多,售票柜台也很宽,有几个工作人员在卖票。大堂以舒缓、舒缓的色调装饰,十几个人坐在人造皮沙发上等待电影开始。我们去了售票处。一个长着鸽子大小的粉刺的女人微笑着带着销售微笑。
“‘爱是超时’两张  ……

我不喜欢“这样好吗?”这句话。错误的日语。
“是的。学生优惠还是优惠券哪个更便宜……”
“等一下!
 ”
“这个人是我的同伴。”
 服务员笑着把笔记本还给了蕾娜。
“我们两个要2000日元  。
” “如果你有这个神奇的笔记本,你可以半价去看电影和公交车,免费进入公共艺术画廊和博物馆  。 “好厉害!”  雷纳拿着残疾证。我不知道有这样的特权。  不管怎样,等一下,好吗?雷纳可以不用拐杖走路和跑步。你跑得比我快。他身体很好,没有吃任何药。蕾娜不是比正常人好吗?我越来越羡慕雷纳的钛合金假腿。我想要那条钛合金假腿是我的。不,这不对。钛制的假腿只有在雷纳佩戴时才具有魅力。雷纳和钛义肢是一体的,我想要两者。你是不是太贪心了?  进入第二个电影院,到达预定座位。雷纳坐在我的右边。 “好久没去电影院了!”  看着雷娜的笑容,我的心都碎了。没多久,预告片开始在银幕上播放,大厅里一片漆黑,主线故事开始了。这是一部流经欧洲乡村的色彩艳丽的浪漫电影。  比起电影本身,我对 Reina 放在电影院椅子扶手上的左手更感兴趣。在电影院里拉女孩的手是自然的吗?如果我被拒绝了怎么办?我害怕被拒绝和伤害自己。我的手湿漉漉的,汗流浃背。  记住!记住!记住!












 你是和玲奈手牵手走下道玄坂的吧?
 我用破旧的牛仔裤擦去手上的汗水,然后把手放在雷纳的手上。我侧头看了眼身边的蕾娜,她一动也不动,直视前方。画面的颜色映照在蕾娜的脸上。就在我准备抽回手的时候,蕾娜将手掌翻了出来,抓住了我的手。脸还是朝前。蕾娜的手柔软而温暖。虽然是第一次在电影院里牵手,但蕾娜却表现的很自然。当我和一个女孩牵手的时候,我有一种奇怪的安全感。这可能是一种本能地从我身体内部涌出的情绪,而不是我的大脑,而是我的心。

 不过,问题是我能像往常一样在电影开始后十分钟左右预测到最后一幕,而最后一幕对我不利,所以我期待的最后一幕与我预期的不同。,那个预期是出卖了。
 女主人公有个因不治之症坐在轮椅上的姐姐,影片以主人公的话结尾,“为了姐姐,让我们快乐吧”。大厅内传来一声抽泣声。结束的五线谱还伴随着BGM在屏幕上播放,但蕾娜松开了我的手,从座位上站了起来。我站起来跟着蕾娜。挤过坐着的观众,朝出口走去。蕾娜沉默了,我害怕她的沉默。

 我们决定在电影院附近的甜甜圈店休息一下。店内内部以深棕色和墨绿色为主,有一种类似美国星巴克的氛围。这样的内饰是否体现了民族性格?
 电影结束后,雷纳沉默不语,再也没有笑过。
 柜台前,一位女店员面带销售微笑,说:“欢迎光临。”
“你想要什么,  蕾娜 ?
” 你确定吗?我不喜欢“这样好吗?”这句话。这是我今天第二次。 “是的,”雷纳回答。  我付了钱,把甜甜圈和饮料放在托盘上,面对面坐在空座位上。蕾娜的金色短发摇晃着。 “你刚才是不是有什么烦心事?”  蕾娜抬头看着我。这是一个无法抗拒的可爱姿态。 “嗯?你在说什么 ?  ” “啊,好吧,我不喜欢‘你愿意吗?’这个措辞,这是一个故事,但我感到很自我厌恶。”  Reina 把自己的甜甜圈放进嘴里。 “没错。我从来没注意过,不过我明白翔太在说什么。大约一半  。 ” “Shota 是那种会立即表现出情绪的人。”
















 “是 吗……?
这样  蕾娜喝了一口冰咖啡。 “给  我一口那个,”雷纳指着我的奶油巧克力甜甜圈。当我把甜甜圈递给我时,蕾娜“啊~”了一声,咬了一口甜甜圈,把一半塞进嘴里。 “不,我不会称之为咬  。 ” 我很高兴你似乎感觉好多了。 “嘿,今天的电影怎么样?”  雷纳板着脸问我。  “嗯 ,嗯,我猜还不错吧? ” “我想成为一名电影导演,所以在我上剧本的函授课程和研究原著漫画的同时,我能在脑海中追溯编剧是如何写剧本的。看完电影  的前十分钟。滋润。蕾娜直勾勾地盯着我的眼睛。














“我想我可以通过注意电影中出现的提示来预测最后的场景。”
这不是翔太的错,不用担心。这是我也想看的电影……
 电影结束后,你哭。
 你知道那种感人的色情片吗?”  ?
“令人印象深刻的色情片 “它可以作为一种工具,让非残疾人看到残疾人,并被诸如‘我的生活不如我周围的人,但我下面有人。那是情感色情片。你  觉得对不起,翔太  ? ” 雷娜没有右腿也能走路能跑,我从没见过她有残疾。另外,我觉得Reina的钛碳假腿很“美”,也想戴假腿,可惜不能。右腿上有钛假肢的雷纳非常漂亮,是我的理想。 “我不是给健全人留下深刻印象的工具。看着我说‘  对不起 ’本身就是歧视。” 沉默并不沉重。一个只属于我们两个人的世界。话只是碍事。我希望时间就这样停止。  蕾娜深吸一口气,继续说道。 “我必须为一件事道歉。”  我不知道这是什么意思。











“嗯?什么事?”
 雷娜嘴角勾起一抹笑意。
“我把左手放在电影院椅子的扶手上,是故意的
吗?
” 塔……”
 我感觉自己的脉搏越来越快,脸都红了。我很尴尬,从正面看不到蕾娜的脸。
“请……”
“我听不见。”
“我喜欢你!请跟我出去!
 ” 我怯生生地抬起脸,蕾娜在微笑。  “好的
。很高兴认识你。”

我不记得我们谈了什么。当我醒来时,我离开了商店,正在外面走。
 蕾娜搂着我。一种柔软的感觉传到我的手臂上,第一感觉我的心就开始跳动。我不在乎我如何看待其他人,其他路人。不管世人怎么看,这只是两个人的关系。没有权利被别人说。所需要的只是我们两个之间的协议,而且它已经在那里了。  “我爸妈今晚
不回家,你要不要来我家?”
我找不到任何词,所以我点了点头。
“很意外吗?残疾人也有
 性欲。 ”

 我从涩谷乘坐京王井之头线,在我经常使用的车站旁边下车。雷纳的家离车站大约有十分钟的步行路程。
“这里,阿塔辛的房子”
 蕾娜指了指一栋大约有十年历史的两层楼房,屋顶上有太阳能电池板。这是一所普通的房子,没有什么特别之处。蕾娜从口袋里掏出钥匙,打开了前门。
“请进
。” “打扰你了。”
 心怦怦直跳的我踏进前门,心里愧疚,像个要干坏事的坏蛋。住在屋子里的人并没有意识到,但每间屋子都有自己独特的气味,而雷纳家有一股柑橘味。我不知道气味是从哪里来的。
 我走到入口处,穿着袜子沿着走廊走,没有穿拖鞋。
“你出汗了。翔太先洗个澡。  我的 ”
 房间进门后在一楼。浴室在后面。毛茸茸的东西没有真实感。  雷纳家的走廊有扶手,无障碍。一进浴室,更衣室里有洗脸盆和滚筒式洗衣机。我脱掉衣服,打开门让我感到惊讶。浴室里摆满了无数的扶手。我不能戴着假腿洗澡,所以我想我需要一个扶手才能用一只腿和双手四处走动。看着雷娜,我觉得残疾不方便,但并不难过。



 我穿上沐浴露,彻底清洗了我的身体,每一个角落和缝隙。冲完淋浴间的泡沫,用浴巾擦干身体,穿上衣服,离开浴室,敲响雷纳房间的门,打开门,雷纳将一杯薏仁茶放在腿上。我戴上它,坐在床上。
 墙纸、窗帘和地毯以暖色调的玫瑰色和橙色排列在一间少女感的房间里。对我来说,这是一个无法抗拒的景象。我希望 Reina 穿上所有的假腿并将它们刻在我的脑海中。那些假腿很漂亮,让我这么想。由钛、碳和塑料制成的迷人曲线令人眼花缭乱。
“我把大麦茶放在桌子上,你喝吧。我也要去洗澡了。
 ” 我带着沮丧的心情盘腿坐在地板上。我的喉咙很干。我伸手去拿桌上的大麦茶,一口气喝光了。一分钟感觉就像一个小时。我的身体着火了。我刚洗了个澡,但我又出汗了。只有在这个房间里,时间的流动才会发生变化,感觉一切都在缓慢移动。我觉得自己像一个活化石腔棘鱼。我脉搏快。你的血压不是200多吗?
 你等了多久了?我没有时间观念。咔哒一声,门打开了,蕾娜走进房间,身上只裹着一条白毛巾。银钛制成的假腿性感到无法抗拒。
“拉上窗帘,打开床边的房间灯
 。 ” Janis Joplin 演奏的“夏日时光”。空间染上了沙哑而颓废的歌声。
 蕾娜的白色浴巾掉在了地板上。裸露的四肢暴露在外。一个炮弹在身前突出,粉红色的(违规用词,请立即整改,禁止带有成人内容)顶端有光泽。纤细的腰身,竖直的肚脐,倒三角的棕发三角区,让我着迷的机械右腿,还有血淋淋的左腿。当我在地上奔跑时,我丰满的胸部在颤抖,在我的面前,我的勃起快要破裂了。蕾娜闭上眼睛,撅起嘴唇。我抿了抿唇。温暖从仿佛融化的柔软双唇传来。蕾娜伸了个懒腰。舌在肉欲上纠缠,血液涌向头颅,大脑沸腾。
 雷娜摘下右腿上的钛合金假腿,靠在墙上,赤裸地躺在床上。我以最快的速度脱掉衣服,跳上床。即使仰卧也不会塌陷的炮弹形状顶部的(违规用词,请立即整改,禁止带有成人内容)包含在嘴里。
当我吮吸(违规用词,请立即整改,禁止带有成人内容)时,我感觉到一股淡淡的
 甜味在嘴里蔓延开来,或许这只是一种错觉。我的(违规用词,请立即整改,禁止带有成人内容)伸出我的嘴里。我感觉到了 当我把手放在胯部时,已经够湿了。我松开(违规用词,请立即整改,禁止带有成人内容),移到雷纳的下半身。雷纳的右腿膝盖以上被截肢,脚尖上有一道伤疤,看起来像是“人”字。是针迹。它还不是肤色,是粉红色的。随着时间的推移,它会越来越接近你的皮肤颜色。我忍不住喜欢那个粉红色的伤口。我舔了舔蕾娜断断续续的右腿,发出咔哒声。树桩又软又软,我不停地抚摸它,几乎没有抑制咬它吃它的冲动。
“没有了……那是性感地带……不是……”
 雷纳被截肢的右腿被舔舐着喘着粗气。我的耐心已经到了极限。我打开蕾娜的腿,切入腰部。
“哦!”
 欲望的象征撕开了童贞的秘密。我沉浸在第一个让我头晕目眩的快感中。
“你的内心很温暖……”
 蕾娜将她的力量用在她搂着我后背的手上。
 即使节奏开始了,也没有持续多久。快乐的火花在我的脑海中飘荡,我将(违规用词,请立即整改,禁止带有成人内容)释放到雷纳体内。
“哦……好热……”
 脸颊染红的蕾娜,湿漉漉的眼睛看着我。我在仍然保持联系的情况下偷走了雷纳的嘴唇。

 那天晚上,他们一起洗完澡后,赤身裸体地拥抱在一起,睡在床上。
“我可能会因为你这么说而生气,但如果你有一条右腿,我可能不会喜欢你

 ”

 我是喜欢截肢女孩的变态吗?它与 LGBT 有何不同?恋物癖是一种异常的性欲,如果不加以纠正会伤害世界吗?例如,新闻报道了一起内衣小偷偷走数千件女性内衣并藏在家里的事件。数以千计的内衣在蓝色的床单上排成一列的景象很奇怪,而且肯定是有害的。因为它惹恼了别人。但是恋足、恋锁骨和恋耳会给别人带来麻烦吗?就算有恋腿癖的人爱上美腿的人结婚了,那是不是给别人添麻烦了?古装戏违法吗?我注意到 只要双方同意,拜物教并不违法,也不属于性欲异常的应予纠正的范畴。

 一个台风日,大风大雨把我的身体都吹走了,父亲说:“我要去买点烟。”然后就出去了。没有时间停下来。之后,父亲就没有回来。我父亲留下的是一块瑞士制造的自动上链机械表,那是唯一留下的东西。
 我讨厌带有滴答作响的秒针的时钟。每当我听到滴答声,我的寿命就每一秒都在缩短。我想一直待到十七岁,直到我死去的那一天。当我年轻的时候,我害怕变老。我病态地害怕自己变老,成为一个极其普通的“无名之辈”。在 17 岁的时候,我觉得我可以成为任何人,宇航员、首相、诺贝尔奖获得者或任何人。然而,随着时间的推移,在我二十多岁、三十多岁的时候,我变成了一个不为人知的极其平凡的人,我很容易面对一个被埋葬的未来。如果我能想象它在我的脑海中,成为社会上的一个齿轮,就像一个可以随意更换多次的零件,我想保持 17 岁。我被对未来的负面情绪所支配。

 我姑姑四十二岁。我已婚,没有孩子。我最近听说我姑姑和她丈夫买了一块墓碑。他说,'这很好'。我真的不知道我怎么了。我不信教,也不相信死后的生命。当我死的时候,我想这就是结束。整体而言,4岁、10岁、2岁、死后世界的意义和品味在哪里?他们大多没有孩子,不知道寺庙会不会在没有捐款的情况下为他们举行追悼会?如果供品停止,墓碑会被移到无名佛那里,墓地会被卖给别人吗?当我的曾祖父在九十四岁时去世时,他一无所有。他被救护车从疗养院送往医院,并于同一天死亡。死因是肺炎。有一个都市传说,当死因不明时,医生将肺炎写成死因,但这是真的吗?曾祖父从军当过兵,复员后当工薪阶层,60岁退休,之后什么都没做,就老了,死了。据说人会死两次。第一个是肉体的死亡,第二个是遗忘。只要还有人记得他,他就活在回忆里。当没有人记得他时,曾祖父真的死了。这就是为什么我不禁觉得我姑姑和她的丈夫在 42 岁时买了一块墓碑的事实非常有趣。我不明白你到底把你的心放在什么上面。

 不知为何,蕾娜在课堂上没有被孤立和欺负,与其他女生相处得很好。看着一头金色短发的蕾娜,谈论着化妆品、时尚、偶像,和其他女孩没什么两样。今天早上,女孩们聚集得越来越多,她们在谈论空的分贝很开心。女性的发型是黑色长发、棕色长发、波浪形、金色短发,并且脱节,没有统一性。不是我有这么夸张的个性或自我主张的政策,我只是有一个我喜欢的发型。一件白色短袖衬衫,胸前的口袋上挂着校徽,胸前系着一条红色的缎带,从格纹超短裙中探出一团光溜溜的大腿,一块银钛单片在肉林中隐约闪耀。有假腿,和其他真腿对比,觉得钛假腿很漂亮,越来越喜欢雷娜。
“嘿嘿嘿,我有男朋友了!”
 蕾娜精神抖擞,身边的女生发出一片黄色的欢呼声。
“啊?谁?谁?”
 少女们把脸凑近了蕾娜。
“猜猜看” “  男朋友 ”“
木老师?
船 “田径部的中学生 ? ” “男朋友!”







 蕾娜向我招手。这是某种仪式吗?我带着假装的笑容走向蕾娜的座位。
“嘿!这是我男朋友霞也翔太!”
 蕾娜微笑着向我挥了挥手。女孩们对棒读感到惊讶。 “嗯?真的吗?” “我  完全
不知道
!” 心情完全傻了。椅子发出咔哒声,蕾娜站起身,双手拍在桌子上。 “什么!再给我一点惊喜!演技也不错!  ” “因为你们 从一开始就是好朋友,太意外了  。 ” “白痴!”  雷纳大叫一声,冲出了教室。一个女孩叫我惊呆了。 “快追她,马上就要开课了  ,好吗 ?” 我惊慌失措地追他。  下楼梯时,蕾娜一动不动地站在一楼楼梯一侧的阴凉处。我也轻轻地搂住蕾娜的背,抱住她。














“喂,我要一直这样下去……”
 蕾娜在我怀里低语。
“我也想那样做,不过马上就要开始上课了,我们回教室吧。”
 蕾娜在我肩上蹭了蹭。
“对不起……太自私了……”
 我松开了拥抱。  “好了,别管它了,我们
走吧?

那个时候,我完全失去了蕾娜是特殊存在的意识。我以为我和其他人一样。至少她的同学们没有给雷娜任何特殊的待遇,他们自然相处得很好。

 放学后社团活动结束后,我和蕾娜一起去了咖啡馆。咖啡厅是一座优雅的西式建筑,天花板上有深褐色的粗木横梁,三角形的阁楼漆成白色。高高的天花板给人一种宽敞开放的感觉。此外,店里挤满了学生和上班族,半数以上的座位都坐满了。面对面坐在靠窗的双人座位上。
“今天的设计和往常不一样,右腿窝。”
 这是我第一次看到假腿窝的设计,有红色、粉色和橙色,和坦克和作战服一样的迷彩图案。反而会显眼,迷彩纹路就没意思了不是吗? “我换了一条新的假腿,所以
今天第一次穿,怎么样?  
” 蕾娜的“白痴”是她经常用来掩饰尴尬的一个词。光是看着 Reina 的钛合金假腿,我的心率就上升了 20 倍。


“准备好点菜了吗?”
 一位女店员过来接单。
“两杯冰咖啡。还有,一份
 巧克力蛋糕和两把叉子。”雷纳笑着回答。
“我很聪明。”
 雷娜把脸颊靠在玻璃窗的另一边,我盯着雷娜金色的短发。无论您从这里添加或减去什么,它都像塌陷的顶点一样整洁美观。是不是因为我爱上蕾娜,我才变得偏爱?不,雷纳从我们第一次见面就很完美。
 在蕾娜视线之外的窗外寻找着什么。您可以在黄昏时分看到白天和黑夜之间的城市景观。夜的黑暗笼罩着天空,太阳已经落山,橙色的残渣在地平线上隐隐约约地亮着。赶回家的人来来往往。蕾娜看到的是一对推着婴儿车的夫妇。他带着温暖的微笑看起来很开心。
“挺好的,那种东西……”
 蕾娜眯起眼睛喃喃自语。
“是啊……”
 没多久,冰咖啡和巧克力蛋糕就被端上了桌。
“拉到一半了?”
 雷纳递给我两把叉子中的一把。Gateau 巧克力甜度适中,适合搭配咖啡。
“我不喜欢将残疾人视为工具的人。残疾人也是人!他们有
 性欲,他们有食欲,即使没有任何改变,他们也会说'对不起'。残疾人是不是健全人重新确认自己幸福的工具。残疾人不是战胜残疾邪恶的英雄。不,不,不,不,不,不。
 发明“励志色情”一词的斯特拉·杨说,残疾人要克服的是这个社会本身,这个社会把残疾人当作特殊的对象。因为我可以很容易地克服这样的一堵墙。
 田径跨栏你一点品味都没有,但这个人
有  天赋
。 “喂,这次可以去翔太家吗?我想好好的和家人告别……”  “ ” 好,这个星期六怎么样?  周六,我在车站的检票口等雷纳。雷纳很容易找到。寻找一个金发女孩,然后看看她的腿。我爱上了 Reina 的假腿吗?你爱上雷娜本人吗?哪一个?  蕾娜找到了我,微笑着挥手。一件天蓝色的连衣裙,白色的褶边,白色的袜子,红色的鞋子,给人一种整洁的印象。与蕾娜携手同行时,熟悉的城市风景熠熠生辉。我们两个人走了一会儿。 “这里  是我的房子。 ” 蕾娜用困惑的表情看着我。 “这里曾经有一栋公寓楼,我一直住到中学。现在已经没有了  。 ”














 这是一个月度停车场,沥青上标有方形的白线,还有大号的白字。绿色的杂草从沥青裂开的角落里长出来。天空是蓝色的,夏日的阳光灿烂。一个角落里贴了一个牌子,上面写着“擅自停车收费10,000日元”,但我知道这样的牌子没有法律约束力。也许是因为是假期,停车场大约三分之一的地方都停满了汽车。许多面包车和轿车。
 我把蕾娜带到了我家门前所在的地方。蕾娜乖乖地跟在我身后,用钛合金的右腿稳稳地踩在柏油路上。
“嘎查!给你。”
 我发出打开前门的拟声声,邀请雷纳进来。
“打扰了。”
 雷娜鞠了一躬,进了门。我像哑剧一样张开双臂,解释道。客厅里停着一辆大SUV,我进不去。
“这里是客厅,这里是客房,这里是浴池,浴池里有可供两人使用的桑拿房和漩涡浴池……”
 毫无疑问是同一个地方,但没有更多. 以前建的公寓不存在。回忆的抽屉被颠倒颠簸,各种不顺心的感觉在我的胸膛里来来去去。那时,我很后悔自己应该这样做,但没有办法像我掉在路上的软冰淇淋那样做到这一点。
“系统厨房里有一个房间那么宽的冰箱,这是我的房间对面的走廊……”
 在那里我说不出话来。那些深埋在心底的往事,像走马灯似的回到了我的脑海。水滴滴落在地上。我哭了,不知道为什么。
 突然,我感到后背上有什么温暖的东西。蕾娜蹲下身子,将我抱在了背上。透过裙子和T恤的布料,传送着德德和玲奈的心跳。蕾娜什么也没说。我们在那里待了一段时间。我用手擦了擦眼泪,站了起来。蕾娜用手指环住我的手。他抓住雷纳的手。我试图说些什么,但我找不到词。

 我从停车场默默地走了一会儿,就到了我现在的家。尽管如此,我还是能从我们牵手的方式中感受到蕾娜的关心,感觉就像我们在用手交谈一样。
 我住在一个公共住宅区。这是一座建于昭和时代的混凝土住宅小区,外墙被雨滴染成黑色。住户老龄化和衰落,新住户很少,所以我和妈妈不用等待就可以立即搬出以前的公寓。

 我仍然无法忘记那一刻。妈妈在门口微笑着迎接我们,她的目光落在了雷纳的假肢右腿上,仿佛在看什么脏东西似的不屑一顾。然后,妈妈带着猴子般的局促笑容,带着我们走进了小客厅。昭和时期建造的住宅小区的天花板很低,墙壁的角落沾满了多年来积累的污渍。妈妈嘲笑雷纳的假腿让我感到羞辱。我无法接受目前的情况,我不得不承认这也是现实的一部分。我是个白痴 他是个大白痴。为什么我没有事先告诉我妈妈 Reina 的假腿?如果我告诉我妈妈,她就能更好地安排情况。蕾娜有没有注意到她母亲那一瞬间的丑陋表情?我是无神论者,但我想祈祷雷纳没有注意到。
 面对面坐在客厅四人桌的椅子上,妈妈推荐一杯茶。
“这是我正在约会的Reina Kidokoro。”
“很高兴认识你,妈妈
 。 ” 我的腋窝下大汗淋漓。我想拉着蕾娜的手逃离这里。即使看妈妈的态度,我对蕾娜的感情也没有丝毫动摇。如果让我在妈妈和蕾娜之间做出选择,我会毫不犹豫地选择蕾娜。
“我儿子欠我的,请继续和我好好相处
 。 ” 在那之后,我们聊了大约 30 分钟的琐事,当我告诉妈妈是田径俱乐部让我们彼此了解时,她的眼睛睁大了。
“是时候原谅自己了,如果我迟到了,我的家人会担心的。”
 蕾娜微笑着从座位上站了起来。
“请再来。”
 到门口送我的妈妈脸上的表情一直紧张到最后。
 我把雷纳带到了车站。我找不到要说的话。
“你是个好妈妈
 。我想知道蕾娜现在在想什么,但同时又害怕知道。  “不,我妈妈很害羞……我
觉得她喜欢蕾娜。她很可爱……” “笨蛋……”  蕾娜露出一朵盛开的花朵般的笑容。我不记得在那之后我对车站说了什么。给了我一个大大的拥抱后,蕾娜拿着帕斯莫穿过检票口,消失在人群中。  在从车站回家的路上,我看到了在路边交配的药虫。我们的性交和药虫交配有什么区别?雄性和雌性交配,这与药丸虫相同。药丸虫为了受精而交配。我们的性与受精无关。为了享乐?还是为了确认感情?也许,因为它们的交配目的更纯粹,药丸虫比我们做的事更崇高。正当我蹲在路边想着这些事情的时候,眼前突然变得模糊起来。最近,我觉得我变得脆弱了。我的精神变老了吗?还是你更年轻? “嘿,这很难说,但是……”







 那天晚上,妈妈靠在我房间的门上和我说话。他之所以隐藏半边身子,大概是因为内疚。
“什么事?快告诉我。” “
那个女孩,蕾娜小姐。我认为她是一个非常好的女孩  。声音太大了,连我自己都吃惊。 “不知道会不会有没有四肢  的婴儿?”我说不出话来。我从来没有想到这一点。我不知道雷纳为什么失去了她的右腿。不知道是疾病、遗传还是意外。 “我不知道,我从来没有问过他是怎么失去右腿的。”  母亲不解地笑了笑。那是一个可怕的、毫无生气的笑容。 “是的,没关系。对不起,我问了一些奇怪的事情……”  母亲消失了。  如果我说我对 Reina 失去右腿的原因不感兴趣,那我就是在撒谎。但我觉得这是我不应该问的事情,所以我以前从未问过。  仔细想想,你可能不明白妈妈的担心。但老实说,我在高中时从未想过结婚、孩子或类似的事情。但当我意识到我不知道时,我开始想知道。我对我不知道的雷纳右脚的历史很感兴趣。我不关心我的孩子的遗传或类似的事情,我想了解更多关于 Reina 的信息。  第二天的午休时间,我们并排坐在地荫下的长凳上,用炒面面包塞满脸颊。













“你想知道我为什么失去了右腿吗?”
 雷纳突如其来的问题让我有些意外。
“不,不是
 真的……”我从昨天开始就一直在想这件事,但我什至不敢说出来。问这个问题的愿望在我体内像钟摆一样摆动。然而,我绝望地没有意识到这一点。
“我想和你谈谈。你能听到我说话  吗?

也许他读懂了我的表情并照顾了我。
“我上初中的时候,我戴着白色头盔骑自行车上下学,一边开车一边看智能手机
 。医生告诉我的。
 好吧,雷纳生硬的表情没有丝毫的阴郁。
“疼吗?
 ” 我讨厌自己问了这样一个麻木不仁的问题。
“疼,或者说不记得了,不记得出事的前后。醒来的时候,我正躺在病床上,那时我的右腿已经被截肢了,我在演戏,蕾娜似乎
 注意到了我尴尬的表情。
“别这样看我,我都习惯问同样的问题,你别担心
 。 ” 在那笑容里,我感受到了母性。
“因为我的缘故,你不希望我被当成情感色情的工具。
 再说了,我不知道我除了右腿还失去了什么。我不是卧床不起,坐在轮椅上,什么?我不吃药,
 不用拐杖也能走路能跑,也没有比健康人亏欠的
 场景,渐渐地,我习惯了身边的人,融入了我的日常生活,变得不起眼
 。 ”
“我最不担心的是我能不能有这样一个身体的女朋友,但现在我有了翔太……”
 这个吻尝起来像炒面面包。

 我有一个不能告诉蕾娜的秘密。是关于我父亲的。
 起初,我父亲是马特。不,至少看起来是这样。渐渐地,我的父亲发疯了,所以我的家人、亲戚和朋友都没有注意到。我父亲是一家公司的总裁。这家公司是我的祖父创办的,在我父亲那一代,他是一家房地产公司的总裁,拥有我住到中学的公寓,以及出租大楼和停车场。我不知道是什么触发了它。然而,听完故事后,只是模糊地理解了过程。我父亲当总统的时候,公寓里出了点小麻烦。有居民匿名反映,同一个房间里经常有陌生男人进入,所以我用重复的钥匙进入,发现几名年轻女性穿着内衣。那是一个非法的成人娱乐业务,由那个行的人经营,我父亲在这个方向聘请了一个聪明而强壮的律师来压制它并将他赶出去。我父亲慷慨地支付了远远高于市场价的律师费,从那时起他就结识了律师。律师第一次带我父亲去韩国酒吧。不要误会我的意思,这绝不是韩国酒吧的母亲或女主人的责任。韩国酒吧除了我父亲还有很多其他顾客,我从来没有听说过其他顾客在酒吧被欺骗和受害,所以我父亲是罪魁祸首。在我父亲头脑的某个地方,电路被切断了。我爸让一个韩国女主人住在我们的公寓里,他们住在一个大概五个人的3DK房间里,我去把店里给的房租都喝光了。或者,有些人拖欠房租一年以上,没有交房租就回国了。通常情况下,如果你有这种痛苦的经历,你会从下一次开始学习并小心,但我父亲缺乏那种学习能力。没过多久,日本人就如同老人的牙齿掉了一样从公寓里消失了,父​​亲一个接一个地让韩国人住在空置的房间里。你打算做慈善工作吗?我知道我父亲很讨人喜欢,但我有一种想要被别人称赞的倾向。在Chi,即使还有银行贷款的公寓处于亏损状态,我也没有考虑未来,我沉浸在一天的快乐中。我父亲去世后,我发现他没有写一份合同就不会让韩国人住在公寓里。韩国的女服务员心里肯定以为我爸是个白痴,但他们会奉承并举起我在商店里扔钱的父亲。老实说,我父亲无疑是我见过的最愚蠢的人,他是我的直系亲属,这令人沮丧。
 一天,我在公寓楼的停车场修自行车时,父亲出来紧张地问我:“你在干什么?”修理自行车。不一会儿,一个三十多岁的美女出现在停车场。我父亲指定了一个停车场作为韩国女主人的聚会场所,我在那里遇到了他。过了一会儿,我在公寓里看到了那个女人。女人怀里抱着一个婴儿。孩子的父亲是谁?一想到它,我就吓坏了。也许我有一个同父异母的兄弟。
 尽管还有大量未偿还的贷款,但豪宅还是处于亏损状态。一家股份公司要求至少有三名董事和至少一名公司审计师,但他们被我父亲的兄弟和亲戚占据,即使他们意识到发生了什么事并聚集在一起,他们就像乌合之众,甚至没有注意他们父亲的暴行。
 大约在那个时候,我父亲在半夜大声呻吟。“不要叫救护车。”他像八卦一样不停地重复,但他的母亲叫了救护车,而他的父亲则以脑梗塞的名义被送往医院。父亲这辈子没进过医院,连完整的体检都没有,是怕医生说出自己的病名,还是怕医院本身?死了,我不知道该怎么办,但至少在那个时候,父亲想像野兽一样死去,在床上扭来扭去。
 当我去医院探望父亲时,我看到他的可耻行为让我为成为他家庭的一员而感到羞耻。我父亲在重症监护室里,在他被连接到静脉输液管和各种医疗机器的电线时向护士求爱。当他最喜欢的护士来时,他伸长鼻子,当他讨厌时对他大吼大叫。人老了,人就失去了理智,人的本性就显现出来了。并不是所有的老人都是温柔、知识渊博、可靠的人,在遇到困难时会拿出智慧。有一些老人是卑鄙的、天真的、没有什么特殊才能的,而且他们的数量比你想象的要多。我父亲一定是失去了理智,害羞的本性就出来了。如果我父亲当时中风去世,公司可能不会破产。然而,多亏了先进的现代医疗技术,我的父亲活了下来。结果,我父亲用出租大楼的租金支付了公寓的贷款,以弥补公寓的赤字。尽管如此,我还是想继续去韩国酒吧。

 父亲去世后,我在不知不觉中隐约看到了发生的事情的轮廓,并在图书馆和互联网上搜索了为什么会变成这样。我意识到,就像赌博成瘾和购物成瘾一样,我父亲很适合上瘾的气质。诊断成瘾的一个准则是,无论是赌博还是购物,您的花费超过收入。根据该准则,我父亲是韩国酒吧瘾君子。我完全忘记了这件事,直到我妈妈指出来,但现代医学指出遗传因素可能导致成瘾。

 九月的一个晚上,当我还在读初中的时候,一场大台风袭击了东京,我父亲说:“我要去买烟了。” 外面风速为 20 m/s 的猛烈风暴。我和妈妈拼命阻止爸爸。
“我们明天为什么不抽烟!”
 妈妈哭着抓住爸爸的胳膊。
“现在必须做。”
 父亲的眼神很不寻常。他的眼睛像浑浊的鱼,无法集中注意力。父亲甩开母亲的手臂,冲出了前门。
 追父亲的时候,外面没有人走,或者说,大风很快就把伞的骨头折断了,把它翻了出来,没用了。没有人走,因为冲进去会很疯狂这样的风暴。各种被风吹来的垃圾散落在马路上。黄色的垃圾袋、树叶、倒下的自行车、报纸,天黑得什么都看不见,雨滴像机关枪子弹一样倾盆而下。
 狂风怒吼,轰隆隆,路边的树木纷纷折断,倒在路上。雨打在我脸上,好痛。当我走到街上时,我看到了父亲的背影。我光着脚跑了这么远,我再也追不上了。你为什么赤脚在台风中奔跑寻找香烟?不要在鞋子上滑倒摔倒?还是忘记穿鞋了?一切都超出了我的理解。在暴雨中,我赤脚的父亲从后面跑在漆黑的夜路上。那是他最后一次见到父亲活着。
 次日,台风过后,在湛蓝的天空下,我发现父亲的尸体面朝下躺在神田河中。没有发现笔记或遗书,暗示自杀。法医尸检并没有断定这是一起事故或自杀。
 在我父亲去世并从这个世界上消失后,发现了一些相反的东西。这是很多债务。我父亲担任总裁的那家房地产公司已经超过了还款能力,濒临破产。我和母亲失去了我们可以称之为财产的一切,包括我们的房子和土地,并搬进了公共住房,好像是为了逃避。与我之前住过的豪华公寓不同,我在天花板低、墙壁昏暗的住宅区里感觉很闷。在那之后,我靠着育儿津贴和妈妈的兼职收入过上了简朴的生活。母亲因无力承担债务而破产时,家具、衣服、电器并没有被没收,所以小区的小客厅里放着一台不成比例的50英寸液晶电视。每当我看那台电视,那是我富裕时代的残余,我都被过去的痛苦回忆折磨着。

 而已。我是一个对疯子的气质可能被遗传感到不安的人。无论是父母还是兄弟姐妹,好朋友,还是恋人,都有一个不能说的秘密。我知道那种容易分崩离析的脆弱,也很害怕,所以不能告诉蕾娜。事实上,我父亲疯了。我是个胆小鬼 我为自己感到羞耻


转自吧贴@insect昆虫660
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发表于 2022-10-22 13:56:31 | 显示全部楼层
好看,非常喜欢
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